まちづくりのためのコミュニケーション戦略(埼玉県寄居町)
まちづくりのためのコミュニケーション戦略(埼玉県寄居町)
【埼玉県寄居町の取り組みについて】
今回紹介させていただく埼玉県寄居町は人口33,573人(2019年4月1日現在)、面積64.25平方キロメートル、東京都心から70キロメートル圏に位置し、古くは秩父往還の街道筋にあり、宿場町として栄えました。中心市街地活性法に基づく基本計画は2018年3月に認定を受け、現在は1期目で、寄居町商工会と株式会社まちづく寄居が中心となってまちづくりを推進中です。今回は株式会社まちづくり寄居のタウンマネージャーである上田嘉通氏に「まちづくりを推進するためのコミュニケーション」についてお話を伺いました。
【地域のママさんとの交流振興にもつながる「埼玉県一、ママが働きやすい町へ」~YORIMaMaプロジェクト~】
株式会社まちづくり寄居では、世代などを意識した様々な取り組みを行ってきています。今回は(まちづくり×地域のママさん)YORIMaMaプロジェクトを紹介いたします。
寄居町は現在待機児童がほぼゼロで、むしろまだ余裕がある状況です。そのような状況にもかかわらず、0~5歳の子を持つ親の就職率は低いという、都会とは違うことが起きています。この背景には、フルタイム勤務が難しい、遠距離に勤めることが難しい、などママさんの就業ニーズと現状のギャップが大きいことにあります。子供優先の生活、子供優先の働き方をまちで支援できないか、ということで上田氏が寄居町に相談、4か月後には民間会社(株式会社Under→Stand)を含めた3社での包括連携協定を締結するに至ります。
YORIMaMaプロジェクトのスキームとしては以下の通りです。
1. PC作業などの在宅ワークについて、ママたちがグループで1つの仕事にあたる(子供の体調不良などで急な休みに対応できる。)
2. 広報など、ママさんの募集は寄居町が行うことで信頼性を高めている。
3. 仕事自体は民間会社である株式会社Under→Standが仲介し、紹介する。
4. スキルアップ講座などを実施することで、仕事の幅を広げる支援も行う。
現在70名ほどのママさんから登録があるとのことです。
ママさんたちの活躍を支援することができる、東京の仕事を、東京の単価で受けることができる、といった特長がありますが、まちづくりに関わりを持つことの少ないママさんと、まちづくり関係者がコミュニケーションを取れる点も大きく、ママさんたちの声をまちづくりに反映することが可能となります。加えてママさんが働きやすい町というイメージが浸透することで定住者増加も期待できます。実際に各マスコミから発信もされています。
【多世代コミュニティの形成】
YORIMaMaは寄居町に住むママさんのコミュニティですが、寄居町では多世代の交流を推進しています。2018年から若者とベテランの交流を促進する「わか(若者)らん(ベテラン)ナイト」を開催しており、現在はその発展形である「寄居町100人カイギ」が行われています。1か月に1回開催され、毎回5人の方に地元の思いなどを語っていただきます。(1人10分程度)
5人とはいっても毎回登壇していただく方を探すのも大変ですが、その作業こそコミュニティを生み出すものであるとのことです。また、日頃まちづくりにあまり参画できていない方にお願いしても、10分間、まちのことや思い、歴史などを自由に語っていただくことはあまり敷居も高くなく、これくらいなら、と参加していただけるケースが多いとのことです。
この100人カイギは、コミュニケーションを深めていくツールとしても役立っています。
【タウンマネージャーが目指すまちづくり】
「世の中で起こる問題の99.9%は、人間の感情が原因である。」
18年ぶりに寄居町にUターンし、タウンマネージャーを務める上田氏の考えです。
・主体的に動けるまちづくりプレーヤーがいない
・住民との接点をたくさん作りたいが何をきっかけにしたら良いかわからない
・若者と年配の方に柔らかい雰囲気でコミュニケーションをとれる場がない
・大事なキーマンだと思われる人がまちづくりに距離を置いている気がする
・創業塾などを実施しても人が集まらない
まちづくりにある上記のような課題に対し、人間の感情が邪魔をしていることが多い、その人の感情を良い方向に向かわせる手段がコミュニケーションである、との考えです。
上田氏はもともと寄居町に生まれ育ちましたが、中心市街地から離れていたこともあり、タウンマネージャー就任時には知り合いもほとんどいない状況でした。そのような状況下、まちづくりを推進するにあたって様々な方々との連携が重要になってきますが、中には非協力的な方も存在します。しかし、上田氏はこのような非協力的な方もちょっとしたきっかけで協力的になってくれると言います。上田氏は“町に住む多世代との交流”を推進し、まちづくりに協力してくれる方を増やすための“きっかけづくり”を大事にしています。
上田氏がコミュニケーションをする上で心掛けていることとして、以下を挙げています。
1. 初期段階は、継続するイベントによる、やや強制的なコミュニティ活動を心掛ける。
→自分の顔を売り、自分に相談が来るような環境づくり
→仕事ではない出会いを創るよう心掛ける。
2. 「この人とこの人をくっつけたら面白い」と思ったら小さなアクションで迅速に応える。
→アイデアにとどめない、動く癖をつけさせる。
3. 共有できる旗を掲げて仲の悪い住民同士、事業者同士の間に入る
→「上田に頼まれたからさー」という、言い訳を作ってあげる。
みんなが参画し、良いまちを作り上げていくうえで、タウンマネージャーが“地域のハブ”としての核となり、第一歩としてコミュニケーションを強化していくことがとても重要です。そしてそのコミュニケーションがまちの財産へつながるのではないでしょうか。