本文へ

中心市街地活性化協議会支援センター

文字サイズ
まちづくり事例さまざまな市街地活性化課題解決のヒント
まちづくり事例

商店街の事務局力がまちづくりの原動力となる(山形市)

【山形市の概要】
 山形市は、山形盆地の東南部に位置し、奥羽山脈と白鷹丘陵に囲まれた面積約382平方キロメートルの都市です。山形市の人口は約25万人で、減少傾向にありましたが、近年は横ばい傾向になりつつあります。山形市の中心駅である山形駅は新幹線つばさの通過駅となっています。また、高速道路の開通により、山形市へは東縁で隣接する仙台市から移動時間が約1時間と縮まり、両地域間の交流人口は増加しています。
 山形市の中心市街地は城下町、商業都市として発展してきましたが、平成12年以降、相次ぐ大型店の撤退、県立病院の郊外移転、仙台圏への買物客の流出などにより、中心市街地の空洞化が進みつつありました。そのような状況下、七日町商店街振興組合がエリアマネジメントを担い、まちづくりを積極的に推進するその秘訣を七日町商店街振興組合の下田孝志事務局長にお話を伺いました。


【七日町商店街振興組合 概要】

設立年月日:1964年2月1日
組合員数:87事業所(2019年2月現在)
従業員数:4名

主な事業内容
 ・駐車場事業:駐車場経営、N-GATE(交流拠点)運営
 ・まちづくり事業:まちづくり計画推進、マーケティング
 ・販売促進事業:イベント、広告宣伝、インバウンド対応
 ・政策推進事業:環境保全、福利厚生、教育情報、事務代行



(交流拠点 N-GATE)
(交流拠点 N-GATE)
(N-GATE内 子育てランドあ~べ)
(N-GATE内 子育てランドあ~べ)

【商店街の成り立ちと概要】
 山形市は「山形城」の城下町として発達し、江戸時代初期から城下では「市日」が立ちました。この地は、「七のつく日」に「市日」が立ったことから「七日町」となった経緯があります。「七日町」は、笹谷街道と羽州街道を結ぶ重要地で、かつては卸業が中心の町でした。最上川舟運が盛んとなり、京との取引などから「紅花商人」が台頭し、近江商人や伊勢商人らが入って、京からの文化を伝え、近代となってからは「商人町」として飛躍的に整備され、近代を迎えました。現在でも、地元百貨店や大型複合ビル、多くの専門店が立地し、商業集積率・集客力・販売額ともに県下随一の商店街であり、隣接して市役所や市立病院などの行政機関や、山形県郷土館や山形市中央公民館などの文化観光施設、オフィス等が立地するなど昼間人口も多く、本市中心市街地の中核を成す商店街でもあります。七日町エリア全体としては、民間主導のリノベーションや再開発計画、マンション建設が次々と事業化し、商業地の地価が上昇に転ずるなど商店街として新たなステージを迎えています。



【積極的なまちづくり活動を行える秘訣】
 会社組織と同じように、ビジョンを明確化し全員が共有理解する、環境を踏まえた商店街としての事業計画・行動計画が明確に示されている、その計画を実現するための組織デザインが明確である、といった会社で言う経営面の仕組みを作り上げている点が七日町商店街振興組合の強みとなっています。そして、その組織全体をマネジメントする事務局力こそが強みの源泉となっており、積極的なまちづくり活動を推進する原動力となっています。
七日町商店街振興組合では、組合設立後すぐに専従事務局制度を導入しました。商店主たちなりに一生懸命に取り組んできましたが、商売の片手間では自分たちが目指すまちづくりは難しく、甘いものではないことを痛感。商店街活性化のためには、絶え間ない見直しと修正を重ねながら「まち」を育てていくことが大切であるとして、実効性と継続性を担保する体制作りを進めるべく、その担い手として専従者が不可欠という結論に至りました。組合員が資金を出し合って専従者を雇用し、担い手を確保・育成していくため、財政基盤の確立と徹底した場作りを行ってきました。
 この事務局を取り仕切るのが下田事務局長です。下図にあるとおり、七日町商店街振興組合の事務局以外にも、同地域でまちづくり活動を推進する5つの団体の事務を行う組織形態となっております。つまり、地域の事務を一手に受けることで、地域全体の情報や各方面の方々とのコミュニケーションが密になるといった効果があります。




(七日町商店街振興組合組織図)
(七日町商店街振興組合組織図)

【様々な改革の実行】
 コミュニケーションを密にする方法として、専従事務局制度の導入以来、月2回発行している情報紙「商店街ニュース」を必ず手配りで商店主にお届けしているそうです。直接届けることで、商店主とのコミュニケーションが図られ、生の声を聞くことができたり、こちら側から適切な情報提供ができるメリットがあるそうです。
 また、商店主やオーナーだけでなく、テナント店長や従業員の声を収集する仕組み(場作り)として、「店長会議」「従業員会」の開催を定期的に行い、現場の声を商店街事業に反映しています。



(従業員会(交流会)の様子)
(従業員会(交流会)の様子)

 七日町商店街振興組合では様々な改革を積極的に実行してきています。
具体的な改革事例を組織・財政・事業に分けてみると以下のようになります。

●組織改革
1. 運営の改革(常任理事会の設置、決定プロセスの可視化)→理事の定年制や立候補制を採用。
2. 事務局機能の強化(集約強化、内部情報共有化)→5つの関連組織統括、月2回の商店街ニュースの発行、手渡しによるコミュニケーション強化。
3. コミュニティの再構築(つながりの場づくり)→ブロック会、店長会議、従業員会、青年会、町内会それぞれの企画運営。
4. 商店街組織加入の条例化(政治的影響力)→山形市中小企業振興条例の改正を実現。

●財政改革
1. 商店街組合員に対する出資金及び賦課金算定基準の改定を実施→公平性と透明性の確保。大型店依存からの脱却。
2. 財政基盤の確立→組合員からの賦課金などは全体の10%程度とし、90%を事業収入とする。→自主財源の確保。

●事業改革
1. ソフト事業の見直し、設立した山形まちづくり会社との役割分担、など事業の棚卸し実施。
→イベントは線から面へ、量から質へ。(単組イベントを辞め、実行委員会形式へ)
→広告宣伝は単発からの脱却として多面的発信の実施(公式サイト、SNS活用、FMラジオ番組、フライヤー・情報誌の発行)
→市民の思いを実現できる場づくり(空間の開放)、受け入れる度量づくり(余白の提供)

 このように実効性と継続性を担保する体制作りをして行くことで商店街や地域の活性化のためには絶え間ない見直しと修正を重ねながら街を育てていくことが大切である、という考えが根底にあり、担い手の人材育成にも力を入れています。



【青年会の尊重】
 七日町商店街振興組合では青年会(七日町商店街青年会)があります。
商店街振興組合より3年早い1961年設立であり、組合の下部組織ではなく別組織として運営されています。この七日町商店街青年会は、七日町商店街振興組合設立のきっかけでありアイデンティティでもあります。45歳までの若手商店主が加入しており、会費制で独自運営されています。主な活動は以下の通りです。

・街を愛する具体的行動・・・一斉朝掃除(毎月7日7時~)
・街を知る取り組み・・・月例会(勉強会、実態調査)
・自分領域を広げる組織・・・持続可能な商店街・地域づくり研究会
・収益事業・・・独立採算型イベントの企画運営

 一斉朝清掃は、七日町商店街のまちづくり活動の原点として位置づけられており、1962年のスタート以来、約60年間継続実施されております。現在でも、毎月50名を超える商店主たちが参加し、商店街の清掃活動を通じ、まちに愛着を持ちながら、地域の担い手となる人材育成といった効果も期待できます。


(一斉朝掃除の様子)
(一斉朝掃除の様子)

【山形まちづくり株式会社の設立】
 七日町商店街振興組合では、商店街に限らず地域のまちづくりにも積極的に関与しています。商店街組織では解決できない課題が増加してきている中で、2015年に商店街出資の民間まちづくり会社として「山形まちづくり株式会社」を設立しました。
 エリアマネジメントの視点と商店街との関係性を重視したまちづくりの新たなエンジンとして、公費依存せず自主財源を確保することを前提とし、資金の地域内循環(再投資)を促す事業を遂行しています。

 主な事業として、1.コンバージョン、リノベーション、サブリースなどを活用した遊休不動産再生事業、2マーケット出店チャレンジを通した新規創業者発掘・育成事業、3.商店街・まちづくり活動団体支援事業(共通駐車券事業、交流拠点運営事業など)、4.コンサルティング・調査分析事業などを展開しています。
 また、空き店舗・空きスペースという物理的な「スキ間」と、人と人との心の距離といった心理的な「スキ間」を解消しようとする実験的プロジェクト「七日町スキ間再生プロジェクト」を地元2大学(山形大学、東北芸術工科大学)と連携し、空き物件見学ツアー、ワークショップ、活用案発表会や模型展示会などを通じて不動産オーナーの意識改革に努める取り組みも行っています。



(スキ間再生プロジェクトの様子)
(スキ間再生プロジェクトの様子)
(建築模型展の様子)
(建築模型展の様子)
(新規創業者向けの起業セミナーの様子)
(新規創業者向けの起業セミナーの様子)
(新規創業者の出店チャレンジができる七日町クラフトナイトの様子)
(新規創業者の出店チャレンジができる七日町クラフトナイトの様子)

【商店街がまちづくりの主体となる】
 このように、七日町商店街振興組合は商店街活性化活動に留まらず、地域のまちづくりにも積極的に参画することで地域の繁栄こそが商店街の繁栄につながる、といった
戦略のもと、多くの先進的な取組みを実現すると共に、多様な事業主体としてまちづくりの原動力となる商店街の姿は、他の商店街から見ても大いに参考になるものと考えます。一度七日町商店街振興組合を訪ねてみてはいかがでしょうか。



〈七日町商店街の年表〉
1961 七日町商店街青年会設立
1962 一斉朝清掃
1964 七日町商店街振興組合設立
1972 組合専従員(事務局)制度導入
   「お買い物バス七日町号」運行スタート(~5年間)
1973 七日町中心市街地発展計画協議会設立
1974 「輝く都市構想」発表
    平面駐車場経営スタート
1976 「七日町中心商店街再開発基本計画」策定
1981 立体駐車場建設オープン
1986 「甦れ七日町商店街構想」発表
1987 山形市中心市街地街づくり協議会設立
    再開発複合施設「アズ七日町」開業
1988 「街づくり協定」締結、商店街アーケード撤去 
米国視察調査団派遣(2年間)
1989 七日町商店街街路整備事業着工(~1990年完成)
1991 「七日町シャトルバス構想」発表
1993 「モンパルナス七日町構想」発表
    ポケットパーク「ほっとなる広場」オープン
1994 山形市立病院「済生館」改装
1996 「七日町地区街づくりガイドプラン」策定
   「元気のある商店街100選」選定(中小企業庁)
1997 中心街共通駐車券事業スタート
1999 中心街循環バス運行スタート
    再開発複合マンション「ニーズビル」開業
2001 「全国商店街おかみさん大賞」受賞(女性部会)
2004 七日町活性化拠点づくり協議会設立 
出資金・賦課金算定基準改定    
    再開発施設「E-nas」開業    
「訪ねてみたい商店街」第8位選出(日本経済新聞)
2005 持続可能な商店街・地域づくり研究会設立(青年会)
2006 「がんばる商店街77選」選定(中小企業庁)
2007 七日町商店街BDF精製事業スタート 
   「山形市中小企業振興条例」改正(商店街加入義務)
2008 「山形市中心市街地活性化基本計画」策定(第一期)
    山形屋台村「ほっとなる横丁」開業
2010 「七日町商店街活性化事業計画」認定(地域商店街活性化法)
    再開発施設「水の町屋七日町御殿堰」開業
2011 再開発マンション「七日町シティタワー」開業
2014 「山形市中心市街地活性化基本計画」策定(第二期)
    七日町商店街プレミアム商品券事業
2015 山形七日町まちづくり株式会社設立
2016 「七日町商店街活性化事業計画」第二期認定(地域商店街活性化法)  
    七日町商店街一括免税手続きカウンター開設、商店街屋外Wi-Fi整備
2017 「N-GATE NANOKAMACHI」建設オープン
2018 「はばたく商店街30選」選定(中小企業庁)
    七日町商店街街路整備改修事業着工(~2019年完成)
2019 「山形市中心市街地グランドデザイン」策定

(ほっとなる広場(E-nas))
(ほっとなる広場(E-nas))