まちの魅力を可視化してネットワークを構築する市民団体の活動とは(埼玉県越谷市)
埼玉県越谷市には、家庭の食卓の安全・安心を守ろうと立ち上がった市民団体「しあわせのたねプロジェクト」が、マルシェを通してまちなかに隠れた魅力を発掘・発信する取組みが見られます。
その活動を通して徐々に協力者を増やし、それに伴い、しあわせのたねプロジェクトは活動領域を広げてきました。今では地域農業者やまちなかの事業者、子育てママを中心とした事業予備軍の支援に発展し、まちなかの活性化に寄与しています。
その取り組みについて、しあわせのたねプロジェクト代表の小菅祐加氏(以下、小菅氏)に伺いました。
しあわせのたねプロジェクトの設立の経緯とマルシェイベントAcha Acha(アチャアチャ)
市民団体「しあわせのたねプロジェクト」は、子どもの食の環境の問題を扱う活動からスタートし、2014年6月、消費の立場から人と人、人と自然のつながりを強くし、安心・安全な暮らしを未来に引き継ぐ活動をする、という理念を掲げ設立しました。
設立のきっかけは、子育てママが主体となり開かれた食の安全性の勉強会でした。参加メンバーは勉強会を通して、家庭の食卓や飲食店、食品小売業をはじめとして、食の安全に対する理解をもっと高める必要があると感じたといいます。
また、越谷市やその周辺の有機農家の取り組みを広め、食の安全性を確保する動きも必要としました。
しあわせのたねプロジェクトは、人の健康や子どもの成長に食が大きな影響を与えることにフォーカスし、親子が畑で土や野菜とふれあうイベントを地元の自然食品店と協力し展開することから始めました。
その活動の中で、農家と畑の置かれている実情を知り、農家と消費者、そして地域のお店の人をつなぐことで、農家が継続できるように導けるのではないかということから、マルシェイベントを考案しました。それが、「こだわりの食と暮らしのあるマルシェAcha Acha(アチャアチャ)」です。
Acha Acha vol.5 アフタームービー(しあわせのたねプロジェクトYoutubeより) 別ウィンドウで開きます
Acha Achaは2015年から継続し、2019年現在で5回目を数えます。Acha Achaがきっかけで、しあわせのたねプロジェクトの活動範囲はさらに広がることとなります。
Acha Achaの展開
しあわせのたねプロジェクトが旗振り役となり、有機農家やしあわせのたねプロジェクトの理念に共感する飲食店などが出展するマルシェAcha Achaは、以下の直近3回の来街者と出展者の推移が示すとおり人気のマルシェとなっています。
イベント来街者数 | 出店者数 | |
第3回(2017年) | 約6,000名 | 53 |
第4回(2018年) | 約5,000名 | 56 |
第5回(2019年) | 約8,500名 | 62 |
越谷ばかりでなく、口コミ効果から近隣地域からも来街者を呼び込む要因は、次のようなしあわせのたねプロジェクトの取り組みにあります。
まちの魅力を掘り起こし可視化する
Acha Achaに参加する有機農家や飲食店などの事業者は、素材や作り方にこだわるが故に、自社の商品・サービスが特徴的なものになります。しかし、そのような事業者は、商品やサービスを作ることはできても、発信が弱く、一般的に知られにくい傾向があります。
こうした事業者の発掘には、しあわせのたねプロジェクトの会員ばかりでなく、しあわせのたねプロジェクトの活動に共感し協働する子育てママのコミュニティも大きく貢献しています。
会員や子育てママ達は、日々の生活の中で、食の安全・安心にアンテナを張り、商品やサービスを厳選しています。その生活の中で発見した店舗や農作物を共有し、訪問して協力を求めているのです。
また、外部からの支援も自然と得られ、しあわせのたねプロジェクトの理念に共感した事業者が、同じ思いを持つ他の事業者を紹介するなども加わり、Acha Achaに参画する事業者が回を追うごとに増えてきました。
このように、しあわせのたねプロジェクトは食の安心・安全といった「関心軸」から協力者を増やしてきました。そして、Acha Achaがメディアとなり、まちの隠れた魅力を可視化し発信しているのです。関心軸が明確で活気のあるマルシェの展開により、口コミが起こり、来街者が増加していくのです。
小菅氏は、Acha Achaのコンセプトに共感した上で、個々が自由に活動し個性を発揮してもらうには、参画者とゆるく繋がることがポイント。しあわせのたねプロジェクトはまちにチームを作る旗振り役であり、やりたいことを手助けする団体でありたいと語ります。
この考えが、参画者一人一人の主体的な行動を呼び起こし、その行動の一つ一つが、Acha Achaの魅力を作り出しています。
Acha Achaの出展費用は、5時間当たりの飲食ブース使用料は7千円、物販ブース使用料は5千円となっている。コストとなる広報や会場装飾、ステージイベントのプロデュースなどは子育てママや地域の業者と目的を共有し協働している。その結果、補助金に頼らない自主運営が可能となっている。
出展者同士がつながり新たなコミュニティを形成する
さて、しあわせのたねプロジェクトの会員や子育てママのコミュニティがAcha Achaの出展者を発掘する際は、まちなかや、遠くても車や公共交通機関を利用して30分程度で行ける範囲を意識しています。
これは、Acha Acha終了後も、来街者が出展者の店舗を利用し関係性を築いて欲しい。さらに、普段出会うことが無い出展者同士が業種を越えて交流を持つことで、商品・サービスの付加価値向上につながるヒントを得て欲しいという願いからです。
このしあわせのたねプロジェクトの出展者同士のつながりを強めたいという思いは、Acha Acha開催の前後で出展者同士が交流する場を提供する取り組みに発展しました。この交流会から、出展者同士のコラボレーション企画が生まれています。
例えば、越谷の無農薬で行う生産農家とカフェ事業者の共同出展や、洋菓子店とテラリウム作りのワークショップ出展者の協働による、クッキーとテラリウムの母の日特別セット商品の開発、さらに、ネイルサロンと美容室、写真家の3者が子供向けにネイル、ヘアアレンジを施し、写真に収めるトータルサービスの展開など業種を越えた様々な連携が生まれました。
また、この交流会では、子育てママたちと出展者の交流もあります。これが、子育てママにとっては新たなお店の発見、出展者にとっては新規顧客の獲得につながり、両者の日々のコミュニケーションに発展しています。
Acha Achaが生んだ独自のコミュニティの形成は、まちの財産となっているといえます。
このような活動から、出展者が運営側に協力するようになってきました。事業者の視点、Acha Achaを運営する子育てママの視点が融合することでAcha Achaがさらにブラッシュアップされ、さらなる出展者・来街者増加につながっています。
出展者同士や出展者と子育てママたちの交流からこのようなコミュニティが生まれた要因は、しあわせのたねプロジェクトがAcha Achaのコンセプトを明確に打ち出し、両者のハブとして機能したことが大きいといえます。
まちなか個店と子育てママの協働支援
Acha Achaを起点とした取り組みを通して、しあわせのたねプロジェクトは、まちなかに、Acha Achaで感じる関係性の心地よさ、雰囲気を日常に継続させたいと考えるようになりました。また、Acha Achaの出展者を集めるプロセスは、まちをこれまでとは違う視点でとらえることにつながり、これまで気付いて来なかったまちの魅力に気付きます。その一つが、古い商店街の廃れていく中で埋もれている、歴史を刻んだ店舗の魅力です。
そこで、しあわせのたねプロジェクトは、古民家再生と利活用を進める団体と協力し、新しい切り口で、このような店舗を発信しまちの魅力として見直すことができるのではないかと考えるようになります。明治時代から続く荒物店としあわせのたねプロジェクトの協働はその一歩として取り組まれました。
しあわせのたねプロジェクトは、まちなか集客が見込めるイベント「宿場祭り」を活用し、荒物店の商品を店先で販売したところ予想以上の売上がありました。販売を手がけたのは、しあわせのたねプロジェクトの協力者である元スタイリストの子育てママです。
この成功を皮切りに、金物店、乾物屋、陶器店などの古い商家とも連携を図りました。具体的には、プランツクリエーターと陶器店とがコラボレーションし、店にある器を鉢植えにしたミニ盆栽を仕立て、元スタイリストの子育てママが、店にある様々な食器と共に店先でデモ販売しました。
また、乾物屋とカフェ料理人である子育てママのコラボレーションをプロデュースし、乾物屋の豆を使ったオリジナルスイーツを店先で販売し、瞬く間に完売しました。どちらの店でも店先に展開したオリジナルのアイテムとお洒落なディスプレイに惹かれて来店につながり、一緒にお店の商品も売れて行きました。この取り組みが、今までお店の存在を知らなかった市内の人を呼び込んだのです。
歴史ある古い商家は、それだけでも魅力あるものとし、場の力に新しい視点を加えることで集客が見込めるという実績を作り、衰退した商店街のこれからの可能性を示す事象を生みだしています。この店舗の軒先を使い、販売促進を図る取り組みは「軒先ショップ」と名づけ、しあわせのたねプロジェクトと古民家再生団体との新たな協働事業となっています。
この軒先ショップの成功は、商店街の衰退と共に埋もれた小規模店舗の魅力を掘り起こしたこと、子育て中に自らのスキルを発揮する機会を得た子育てママの魅力を掘り起こしたことが大きく、Acha Achaを通して子育てママと共に事業者や商品・サービスの魅力を可視化してきた、しあわせのたねプロジェクトならではの取り組みといえます。
小菅氏は、小規模店舗だからこそ、コミュニティを軸に両者のノウハウを活かした事業展開が素早くできると実感できた。その可能性を多く持つ中心市街地の活性化に今後も寄与したいと語ります。
また、子育てママについても、女性は、地域社会に対し新たなマンパワーになるポテンシャルを十分に持っている。それを発揮できる環境を提供していきたい。経済が成熟し、暮らしている実感や、幸せを感じる視点が変化しつつある今は、女性の視点がさらに必要とされるのではないかとしています。
まとめ
しあわせのたねプロジェクトを取材して、まちづくりには女性の力が不可欠であることを再認識しました。女性ならではの視点をまちづくりに活かすには、意見を聞くだけでなく、女性が主体的に行動できる環境を整えることも必要です。
今後も小菅氏をはじめとする子育てママたちの生き生きとした活動が、まちの隠れた魅力に光を照らすことを期待してやみません。