日向市中心市街地活性化協議会
取組のポイント
行政、商工会議所、再開発街区、日向市協議会の緊密な連携
毎週開催される「タウンマネージャー定例報告会」がスムーズな連携を促進
緊密な連携を通して育まれた関係者間の「信頼」
1.中心市街地活性化への取組
(1)取組の成果
日向市の中心市街地活性化基本計画(以下「基本計画」)は、平成20年3月に認定を受け、平成26年3月に満了(1年延長)となりました。
基本計画の数値目標は、
(ア)歩行者・自転車通行量
(イ)活性化区域内の居住人口
(ウ)市民企画のイベント実施数
の3つでしたが、事業の進捗を含めすべての目標を達成しました。
「歩行者・自転車通行量」では、目標値と最新値(カッコ内)が2,250(2,479)人、「居住人口」では、1,360(1,417)人、「イベント実施数」は、60(73)回でした。
このすばらしい成果の背景には、日向市、日向商工会議所(以下「商工会議所」)、再開発街区、日向市中心市街地活性化協議会(以下「日向市協議会」)の緊密・スムーズな連携による着実な取組がありました。
(2)取組の経緯
基本計画期間は、平成20年からの6年間でしたが、日向市では、これ以前から、基本計画につながる日向市と商工会議所の取組が行われていました。
1)基本計画認定前(~平成19年)
日向市では、郊外への大型店の出店により、平成7年から相次ぎ中心市街地内の大型店4店が撤退・倒産し、中心市街地の既存商業は大きな打撃を受けました。
中心市街地の人口は、平成2年と17年で1,703人から1,378人へ19%の減少、中心市街地の年間商品販売額は、平成3年と16年で173億円から73億円と58%の減少となりました。
これに対し、日向市では、平成8年から各種委員会により、これからのまちづくりの基本的な方向性を議論・検討し、その結果を積極的に公表していきました。
また、同年に担当部署として、都市政策と商業政策を合体した「市街地開発課」(現、市街地整備課)を新設し、開発街区ごとに担当者も決めました。
そして、「都市基盤整備と合わせた魅力ある商業核づくり及び指定した中心市街地地区への公共事業と民間活性化事業の集中的投下」という方針を掲げ、まちなかの大改造に乗り出すことになりました。
一方、商工会議所では、これからのまちづくりの理解を深めてもらうため、地区商業者と地権者の方々を中心に「街づくりブロック協議会」(以下「ブロック協議会」)を立ち上げました。
ブロック協議会では、まちづくりの課題解決の手法や具体的な事業が検討・研究されましたが、行政(市街地再開発課)、商工会議所(中心市街地担当者)、コンサルタント(後のタウンマネージャー)の3者もこのブロック協議会に参加し、「毎週」木曜日に定例会として開催されました。
また、区画整理事業の勉強会もあわせて開催され、両方の開催回数は合計約200回にもなりました。
さて、このような取組が進むにつれ、ブロック協議会メンバーには「まちづくりの方向性」と「区画整理事業のノウハウ」のしっかりとした共有と「まちづくりは自らの手で!」という強い信念が徐々に醸成され、後には、区画整理に関する地元住民等への説明や、同意書の集約に関与するまでになりました。
まちの区画整理事業は着々と進み、平成14年度に、10街区ではパティオ(中庭)を囲む商業空間「ひゅうが十街区パティオ」が、翌15年度には8街区の再開発(愛称「リーフギャラリー」)が、そして16年度には13街区に「モビール13」の商業施設が、街区ごとにデザインコードを採用し、街路整備と並行して完成しました。
平成18年12月には、鉄と地元特産の杉材を組み合わせ優れたデザイン性を持つ、建て替えられた日向市駅が完成しました。
その後、駅前の中心市街地の再開発は、平成20年からの認定基本計画事業として進められていきました。
2)基本計画認定後(平成20年~)
平成20年に基本計画が認定され、中心市街地エリアの大改造はますます推進されていきました。
初年度の平成20年度に、日向市駅前後の線路の連続立体交差事業が完成します。これにより、慢性的な交通渋滞が解消し、南北に走る線路により東西の海側と山側に分断されていた市街地が一体化しました。
平成22年度には、日向市駅西口前に3,400㎡の交流広場「ひむかの杜」が完成しました。
ひむかの杜の使用料は、日向市の活性化に役立つイベントや学生イベントの場合減免(大部分は無料)としたため、「日向ひょっとこ夏祭り」や「日向十五夜祭り」という歴史ある地元行事や子供が参加する「まちなかハロウィン」等の各種市民イベントが、ここを会場に数多く開催されるようになりました。
なお、基本計画事業40のうち21が継続事業で、これらはすべてソフト事業です。
また、駅前には、分譲や賃貸のマンションが建設され、居住人口が大幅に増えるとともに、新たにスーパーマーケットも開業しました。
さらに、このようなまちづくりの進展を背景に、市の補助により商工会議所が実施している中心市街地エリアへの空き店舗対策の効果も相まって、平成20年度から現在までに20店舗以上が新規開業しています。
2.協議会とタウンマネージャー定例報告会
(1)協議会組織
日向市協議会の組織構成は、下図のとおり、非常にシンプルです(*)。 下部組織としては、幹事会とタウンマネージャー定例報告会があり、部会、委員会、ワーキンググループ等はありません。
さて、そうすると「基本計画数値目標のすべてを達成」という素晴らしい成果をあげた日向市ですが、協議会の特長は、どこにあるのでしょうか。
吟味され、練り上げられた基本計画がベースにありましたが、この成果の実現に貢献した取組として、「タウンマネージャー定例報告会」と再開発街区毎につくられた「街区協議会」の活動をあげることができます。
*下図は基本計画期間中の組織構成で、満了後の現在は、タウンマネージャーは不在で、タウンマネージャー定例報告会は開催されていない。
(2)タウンマネージャー定例報告会
タウンマネージャー定例報告会(以下「TM定例報告会」)は、地元在住のコンサルタント三堀俊之氏が平成21年にタウンマネージヤーに就任してからスタートしました。 きっかけは、「基本計画事業がスムーズに実施されていくには、その事業の準備期間を含め毎日様々な場で新しいこと(問題・課題)が発生しているのだから、直接の担当者同士、短い間隔で会って意見・情報交換することが必要。」ということでした。
そこで、街区協議会は2週間に1回のペースで開催されていたので、この会議はもう少しペースを上げ、以前のブロック協議会のように毎週開くことにしました。
TM定例報告会のメンバーは、タウンマネージャーと日向市(市街地整備課)、商工会議所(中心市街地担当者)の3人で、メンバー全員30~40代、行政と商工会議所は主事、課長補佐です。
そして、TM定例報告会は、毎週の定例会としてスタートしました。
タウンマネージャーに日向市と商工会議所のフットワークの良い若手担当者が集まる会合(打ち合わせ会)というイメージで、毎週水曜日の午前に商工会議所で開催されます。
内容は、タウンマネージャーから前後1週間の活動結果と予定の報告を受け、事業の進捗や各メンバーが入手した様々な情報の交換と共有、発生した問題(課題)の対応策の協議、次回の開催日程の確認等です。
この会議で決められた対応策は、すぐに着手できるものから実行に移されます。
また、このメンバーでは範囲が広すぎたり重要な部分に関連する等、すぐには着手できない問題は持ち帰り、上司に相談するなどして、その後実行に移されます。
そして、翌週の水曜日に、この1週間の報告・連絡・相談が行われ、問題への対応策が協議され、実行に移す、という流れが繰り返されます。
事務的な部分に関しては、次のようになります。
開催案内は、原則水曜日開催と決まっており、次回の日程と会場は前週に決めるので「なし」。
資料は、各自が配布が必要と思うものを「必要部数持参」。
記録は、会議概要の「ポイントを簡略に残す」。
報告は、概要を上司に報告しますが、軽易なものから「すぐに実行に移す」。
経費は、徒歩圏内の商工会議所に集まるだけなので「なし」。
このように、とてもシンプルなかたちになっています。 一方、街区協議会を見ると、メンバーの多くはブロック協議会当時の活動の積み重ねにより、「まちづくりの方向性」と「区画整理事業のノウハウ」が共有化されており、「まちづくりは自らの手で!」という強い信念も持っています。そして、基本計画事業の当事者であり、密接な関係もあるので、主要メンバーは日向市協議会の構成員になっています。
この会議には、TM定例報告会の3名も参加し、現場の当事者の方々との取組事業の進捗や課題そして対応策等が話し合われ、結果として相互に共有化されることになっています。
ここで、タウンマネージャー定例報告会を事業管理手法の視点で見ると、PDCAサイクル(Plan:計画を立てるDo:実行するCheck:評価するAction:改善する)で回っていることに気づきます。
実施する事業は決まっていますが、その実行過程で、どうしても改善対応しなければならない場面が出てきます。
一方、街区協議会も同様に、街区の区画整理事業の実行中に様々な課題が発生し、PDCAサイクルで動いていくことになります。
このサイクルが、TM定例報告会は1週間単位で、街区協議会は2週間単位という短サイクルで、相互に連動しながら回っています。
このPDCAを、もう少し広い範囲で見てみると、事業案件により委員会等を設置し協議・検討する行政や日向市協議会事務局である商工会議所も、より長い周期でPDCAが回っていると考えられます。
このように、日向市では、短期のPDCAと中・長期のPDCAが連動・連携しながら回っています。
ところで、PDCAが地域内で複数回っているという姿は、日向市に限ったことではなく、どこの地域でも同様だと思いがちですが、日向市の特長は、これら周期の異なるPDCAを最短サイクルのTM定例報告会がつなぎ合わせており、そのため相互の連動・連携がスムーズになり、結果として基本計画事業が計画的、効率的に実施される効果を生んでいたところにあります。
なお、街区協議会を日向市協議会からの目で見ると、一般的に各地の協議会の部会は、「地区」か「課題」ごとにつくられることが多いですが、街区協議会は、「地区」でつくられ、日向市協議会の部会としての機能に近いと推察できます。そして、TM定例報告会のメンバーが毎週橋渡し役となり、街区協議会は日向市協議会の外部組織ですが、実質的に日向市協議会との連携がとれるようになっています。
3.関係者の声
TM定例報告会メンバーの日向商工会議所経営指導課長補佐の増元大輔氏は、「TM定例報告会は、毎週定例の会議なので、普通のこととして開催していました。実施中の事業に関して、リアルタイムで様々な意見・情報交換が行われました。ただし、街区協議会と日程が重なるときがありました。TM定例報告会は日中、街区協議会は夜ですので、欠席ということはなかったのですが、基本計画の満了まで相当に忙しかったです。」と、また、日向市市街地整備課中心市街地活性化推進室室長の中城慎一郎氏は、「日向市協議会、市民、商店街等から更なる活性化を望む意見が寄せられたことから、実施した事業の評価・再検討を行い、日向市単独の中心市街地活性化基本計画を策定しました。」と語られました。
4.取材を終えて
タウンマネージャーをメンバーとする会議は、取組の活発な協議会で「タウンマネジメント会議」等として開催されていますが、多くは毎月1回程度の開催です。会議内容に違いはありますが、回数として4倍にあたる毎週の開催というのは、とても興味深いものでした。
そして、TM定例報告会のメンバーは地域内の他の会議にも出席しており、その時々の、最新の現場情報が交換され、協議されていました。
確かにこうなると、各事業の進捗はスピードアップされると思いますし、毎週の対応策の繰り返しは、調整相手と頻繁に会うことになり、意思疎通も深くなることが想像できます。
日向市は、基本計画事業を素晴らしい成果で満了しました。また、この成果を踏まえ、更なる活性化のため、新しい計画を策定しました。
今後一層のまちづくりの推進に期待がふくらみます。
取材:平成27年6月
日向市の概要
宮崎県北部に位置し日向灘に面する、人口約63,000人の市です。
県内唯一の港湾工業都市で、化学・金属等の事業所が立地しています。
交通としては、鉄道で、宮崎空港から宮崎市を経由(約10分)し、乗り換えなしで日向市まで約50分(特急)です。
協議会の概要
- 協議会名:
- 日向市中心市街地活性化協議会
- 所在地:
- 宮崎県日向市上町3-15(日向商工会議所)
- 設置日:
- 平成19年11月16日
- 構成員:
- 25名
- 法定組織者:
- 【都市機能増進】(一社)日向市観光協会
【経済活力向上】日向商工会議所
- 参考URL: