商店街で交わされるあいさつ、大学生の活動とそれを支える人々
ポイント
- 商店街を舞台に大学生の活動でまちの機能や魅力を高める
- 大学生の自主性を活かしつつ関係者がサポート
- 場所:
- 高知県高知市
- 人口:
- 約33.9万人
- 分類:
- 【環境・エコ】【教育・文化】【情報発信】【その他(学生の参画)】
- 協議会:
- あり
- 実施主体:
- こうちTMO(高知商工会議所)
1.活性化への取り組み
(1)エスコーターズ誕生!
エスコーターズが誕生したのは平成13年の4月。お城下でハレの舞台でもある「おまち」(高知市中心商店街)で安心かつ楽しく快適に買物ができるよう、商店街の清掃、介助、案内、自転車等の整理を行うマスコット隊として編成されました。
メンバーは高知女子大学(現:高知県立大学)の学生です。お揃いの真っ赤な帽子とベストに身を包み、アヒル型のチリトリとホウキを手に、道行く人に笑顔であいさつを投げかけながら商店街を巡回することから「まちの動く灯台」と呼ばれています。
エスコーターズ事業はTMO構想に位置づけられ、平成15年からは大学の公式サークルに、さらに平成24年11月に認定された高知市中心市街地活性化基本計画に掲載されています。
(2)有償ボランティアの意味
エスコーターズの基本的な活動には商店街から手当(時給800円×5時間)が支払われています。学生が学業以外の時間で生活の糧を得る必要があること、無償ボランティアでは個人の都合に左右されがちで組織的な活動が難しくなること、プロ意識を持って責任ある仕事として継続させるために有償としています。
しかし、エスコーターズはアルバイトの手段ではありませんし、商店街から委託された作業員でもありません。商店街を巡回して気付いたこと、集めた情報をレポートとしてまとめることは大切な役割です。さらに、人々の注目を集めることから、快活で優雅な立ち居振る舞いが求められており、接遇研修を受けるとともに介助の知識も身に付けなければなりません。このように活動からメンバーが得るものは目に見えない財産となります。地域活性化の参画意識が問われている活動のため、有償ボランティアとして運営しています。
(3)活動を支える地道で献身的なサポート
大学生が商店街で活動を行うのは珍しいことではありませんが、全国的には継続していくことが難しく、休止する活動が少なくないなかで、平成26年で13年目を迎えます。エスコーターズがなぜここまで続けられたのでしょうか。
エスコーターズをまちで見かけるのは日曜日ですが、木曜日の夜にはミーティングがあり、高知商工会議所の職員が参加します。そこで活動の振り返りや意識の共有が図られるのですが、エスコーターズも生身の人間ですから、疑問や悩みをぶつけることもあるでしょう。そんな際に、商工会議所の職員が励ましたり勇気づけたりします。なにより彼女たちの気付きと自主性が大切であり、それを尊重したいとの思いで手間をかけて信頼関係を築きながら成長を見守っています。
注目を集める活動なので、あちこちから声をかけられることがありますが、それゆえ活動のあるべき姿について明確な理念を持つことが求められます。貴重な学生時代の自由時間を削って行う活動にどのように向かい合うのかをメンバーに問いかけつつ、理念がぶれないように支える献身的なサポートがあっての活動です。
(4)存続の危機を乗り越えて
平成25年度は1回生の参加がなかったため、エスコーターズ存続の危機に直面しました。3回生は、先輩がやさしく接してくれたことが自分たちの入部のきっかけとなったことを思い出し、エスコーターズ主催のランチ会を行いました。集まった1回生には社会の役に立ちたいとの思いがありましたが、まちのおいしい店とか、日常生活に役立つまちの情報を教えてくれるサークルのあたたかい雰囲気が5人の入部を後押ししました。入部に際してはエスコーターズ体験を行い、その後に高知商工会議所で面接を行うことで活動の品質を保つようにしています。
(5)気付きと自主性が活動の原動力
エスコーターズの活動をやって良かったと思えることは、日々の活動での出会いです。エスコーターズがあいさつをしながら歩いていくと、すれ違い際に「いつもありがとう」「がんばりゆうね」などと、まちを行く人がねぎらいの言葉をかけてくれることがあります。エスコーターズが再度お返しの返答をして何気ない日常に心がつながる瞬間がある。そんなやりとりが「共助」の原点かもしれません。
エスコーターズには、自分たちが企画から実行まで行う12月のクリスマスイベントが任されます。今度は、大学生の夢を商店街がサポートする番です。商店主からの助言を受け入れ、社会性と折り合いをつけながら自分たちがやりたいことをやり遂げます。そのことがかけがえのない経験となっています。
リーダーの「ちゅるさん」(エスコネーム)にお話を伺うと、長続きする秘訣は、責任を自覚しつつも楽しみながらやっていること、まちの人たちに見守っていただけることが、励みと語ってくれました。
(6)商店街の理解とエールで後押し
エスコーターズの活動を支えているのは、高知商工会議所と高知県立大学、高知市です。そして忘れてはならないのが、エスコーターズ事業に賛同した各商店街のリーダーのみなさんです。数値目標や目に見える成果だけでは、見えてこないまちの活動。活動資金を提供するだけではなく、心を通わせることがまちづくりの真髄と捉え、大学生の参画と成長で綴っていくエスコーターズとそれを見守る人たちの思いが重なって、高知のおまちに彼女たちの明るいかけ声が響いています。
2.取り組みの成果と今後の課題
あいさつから始まるエスコーターズの活動は、まちのイメージアップをもたらしました。清掃活動が奏功して煙草のポイ捨ての減少にもつながりました。情報収集や調査事業を行うほか、企画モノでは、イベント等の告知を行う掲示板の設置、絵本やオリジナルマップの制作、ゴミ箱の設置、エスコーターズのラッピング電車による来街の呼びかけ、イベントの企画実行など多岐に渡る成果があります。
課題があるとすれば、卒業に伴うメンバーの変化や担当者の異動など属人的な要素を乗り越えてエスコーターズの精神をどのように受け継いでいくかということです。活動の理念を共有し、メンバーの納得を得て活動を行うために毎週のミーティングは欠かせません。学生の自主性を商店街に活かす活動を継続させることは、人々にまちづくりやコミュニティへの参画を呼びかける機会となり、次代の商店街のあり方を考えるヒントとなるでしょう。
3.まちの概要、人口、交通、歴史、文化
高知市は、高知県のほぼ中央に位置し、北部の北山に源を発する鏡川の下流域を中心に都市が形成されています。南は浦戸湾を経て土佐湾に面し、太平洋を一望できる地理的条件です。温暖な気候で年間を通じて降水量が多く、台風の進路に当たることから年降水量は3,000mmを超える年もあります。
中心市街地の公共交通は、北側に位置するJR高知駅、はりまや橋を中心とした十字方向に路面電車(とさでん交通)と路線バスの経路が集中するなど、公共交通ネットワークの中心となっています。
歴史的には、関ヶ原の戦いで敗れた長宗我部氏が改易となり、土佐に入国した山内一豊が城下町を形成して以来、土佐の政治、経済、文化の中心地として発展してきました。幕末には坂本龍馬、武市瑞山ら勤王の志士を輩出して明治維新の礎を築き、維新後にも板垣退助らが自由民権運動として、その思想を全国に発信しました。
高知市周辺の平野は、食料の供給地として農業が発展。江戸時代からの日曜市をはじめとした街路市には新鮮な食材が並び、高知市の地産地消の食文化を支えています。豪快な皿鉢料理に代表される「おきゃく」(宴会)や箸拳などは、土佐の宴席文化として広く注目されているところです。昭和29年に高知商工会議所の有志が始めたよさこい祭りは、全国に広まって高知の夏を彩る一大行事となっています。
- 面積 :
- 309.22平方km
- 総人口:
- 339,034人(推計人口、2014年10月1日)
- 世帯数:
- 153,007
- 人口密度:
- 1,097/平方km
<取材:平成26年10月>
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