官民協働の空き店舗対策で人々をつなぐ「ぎんこい市場」
ポイント
- 官民協働による空き店舗へ進出した事業者の支援
- 集客を活かした回遊性向上の取り組み
- 商店街が忘れていた「つなぐ」「つながる場所」
場所: 愛媛県松山市
人口: 51.5万人
分類: 【空き店舗・空きビル】【商業施設】
対象地域: 松山市中心市街地
協議会: あり
実施主体: 株式会社愛媛CATV
関連HP: (株)愛媛CATV
http://www.e-catv.ne.jp/ 別ウィンドウで開きます
(株)まちづくり松山
http://home.e-catv.ne.jp/machi-matsuyama/ 別ウィンドウで開きます
ぎんこい市場(Facebook)
https://www.facebook.com/Ginkoiichiba/
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1.「ぎんこい市場」の事業内容
ぎんこい市場は、松山市の空き店舗対策事業の一環として平成21年4月にオープンしました。事業のねらいは、愛媛県中予地区の生産者・加工者が中心となって農林水産物等を販売することで、まちなかの消費者へ安心・安全な農産物等の提供、農山漁村からの情報発信、消費者との交流活動を行うとともに、商店街への集客を図り中央商店街活性化の一翼を担うことを意図したものです。
運営は、情報発信機能を担う(株)愛媛CATVを母体に、「新鮮ぐみっ」(生産者の組織)、商店街との調整を担う(株)まちづくり松山等からなる運営協議会を設置し、意欲ある生産者を支援する愛媛県中予地方局、空き店舗対策として商店街活性化を支援する松山市地域経済課の助言を得ながら、これに当たりました。(株)愛媛CATVが運営母体となった理由は、ぎんこい市場を拠点として地元向け番組の充実やまちなかでの情報発信等をねらいつつ、地域貢献活動として位置づけられたからです。
2.ぎんこい市場の課題
まちなかに不足する生鮮野菜や惣菜の提供機能を持つぎんこい市場はオープン当初から多くの来客があり、それまでまちなかであまり見かけなかった地区の高齢者を中心に、子どもに新鮮で安全安心な野菜を食べさせたい子育て世代の母親が集まるなど、商店街の集客機能として一定の成果を上げました(初年度の来店客数は約10万人)。2年目の平成22年度も途中まで順調に推移していましたが、後半に業績が急落したことで運営の継続に危機感を抱いた関係者から今後の運営について中小機構四国支部(現四国本部)に相談がありました。その結果、中心市街地活性化協議会などと連携し、平成23年度上期で 「中心市街地商業活性化診断・サポート事業【プロジェクト型】」 別ウィンドウで開きます (以下「サポート事業」)を行うことで、以下に掲げる課題を抽出し、解決していくことにしました。
関係者の意見を集めたところ、運営協議会は設置されているものの経営主体があいまいで船頭多くして迷走傾向が見られること、店舗も売上高を求められるあまり雑多な印象が拭えず地産地消のコンセプトがわかりづらくなっていることが明らかになりました。さらに、それまでとは異なる来街者層を活かした商店街への波及効果を発揮できていないことから以下の3つの課題が見えてきました。
- 運営協議会の検証と機能強化
- ぎんこい市場の検証と改善
- ぎんこい市場のモデル性の波及と商店街等との連携の推進
3.課題の解決に向けて
- 運営協議会の検証と機能強化
運営協議会のあるべき姿と乖離している実態が明らかになり、責任と権限を持つ経営主体を明確にする組織のかたち((株)愛媛CATVによる直営化、意思決定の流れの整理、店長の権限強化など)を検討しました。 - ぎんこい市場の検証と改善
商店街の来街者及びぎんこい市場の来店客のアンケート調査を踏まえ、ぎんこい市場の認知度、支持されている要素、求められる要素等を探りながら、運営理念、運営方針の確立、想定される顧客像と提供価値の整理、キャッチフレーズ「ふるさとの田んぼと畑に近い店」の浸透、販売促進の評価、商品の陳列・レイアウト・ディスプレイ方針、52週MD(年間を通した各週の販売促進計画)に基づく店舗運営のマネジメント等について検討しました。 - ぎんこい市場のモデル性の波及と商店街等との連携の推進
ぎんこい市場は、行政やまちづくり会社の後押しに加えて、企業スポンサーが伴走することで、地区に必要とされる業種を空き店舗に誘致して持続的に運営できています。つまり、企業スポンサーがCSRの視点を持つことが成功要因のひとつとなっています。そこで、ぎんこい市場のモデル化による空き店舗対策のスキームづくりを検討しました。
一般に空き店舗対策事業では、補助金を受けた事業者が資金の切れ目に退店することも少なくありません。しかし、地域が必要とするなど一定の公益性を持つ事業を前提に、行政や経営支援機関のサポートとスポンサー企業の伴走があれば空き店舗が有効活用される可能性が高まります。
一方で、スポンサー企業も地域貢献によるイメージアップに加えて今回のように本業である番組制作(ローカルコンテンツ)に資するばかりか、テストマーケティングや営業拠点としての活用も見えてくるなど互恵的な関係を持つことが可能です。そのことが持続性のある空き店舗活用につながります。
また、高齢者が高頻度に来店するぎんこい市場の特性を活かして、主としてシニア向けに企画した「商店街ツアー」のしくみを検討しました。
ぎんこい市場の向井店長は山間部からぎんこい市場へ通っていますが、山間部の高齢者はまちへ行くのが憧れで買い物を楽しみたいと思いながらもできないことを知っていました。高齢の女性であってもおしゃれの心は失っていないのです。一方で商店街は専門的な知恵やノウハウを持ちながらそれを伝えようとすると「売り込まれている!」と敬遠されたり、「買わずに出にくい」などの心理的な敷居がありました。
そこで、来店の大義名分をつくりつつ個店のファンづくりを行う「商店街ツアー」を企画し、向井店長が商店街有志とともに模擬ツアーを実施。結果は、販売店も来場者も満足でした。今後は、出張型の商店街ツアーの企画やインタービューアとして商店主から魅力を引き出すアイデアなども温めています。
商店街ツアーは、商店街内の個店を数店舗めぐるツアーです。実施には費用がかからず、商店街(個店)の敷居を下げてファンづくりにつながる方策です。身近なお客様であっても商売抜きに商品の良さや経営の姿勢、店主の考え方はお伝えできていないもの。ファンづくりを目的とする商店街ツアーは、顧客からその友人へとお店のファンを広げてくれるとともに大型店では味わえない心の通う買い物が可能です。
商店街ツアー実施に際しては、おもてなしの心で接すること、売り込みはしないことをルールに、年齢層や属性を考慮してテーマ設定を行う(想定顧客の「見える化」)ことと、どんな人に、どんな場面で、どんな利点があるかを把握して自らの言葉でプレゼンテーション(使用価値の訴求)することが重要です。
4.成果の評価~あらゆる要素をつなぐ拠点、商業活性化への波及性~
サポート事業の開始後、組織体制が整い、マーケティングやマネジメントの助言の実行によって来店客数は約13万人に増加し、店舗の業績も右肩上がり(前年対比売上高14%増)となりました。その後、ぎんこい市場は銀天街内で移転を経験し、平成25年4月からは(株)愛媛CATVの直営として3度目の移転及びリニューアルが行われました。店舗面積は12坪と前店舗の1/3に減少しましたが、売上は順調に伸びています。
この店舗の2階には、(株)愛媛CATVと地元の放送局である南海放送が共同でガラス張りの公開スタジオ「エルスタ」を開設。(株)まちづくり松山の大型ディスプレイによる映像広告「ビジョン」事業との連携も検討されています(ビジョン事業の収益がまちづくりに再投資されるしくみであることから、平成25年下期のサポート事業を実施中)。市民や商店街からの情報発信を気軽に行える拠点として今後の活用が期待されています。
- 松山市:「松山市商店街空洞化対策事業補助金」(H21、H22、H23)
商店街振興組合等が商店街の空店舗を活用して実施する商店街活性化事業(住民等の共同の福祉または利便の向上)に対し補助金(改装費、運営費の補助対象経費の1/2以内)を交付。 - 愛媛県:「まちの元気再生応援隊育成事業」(H21)
「公共的スペース木材利用モデル事業」(H22)
商店街と連携して商店街の活性化に取り組み、商店街のマンパワーを補う「応援隊」として、今後の商店街活動をまちぐるみで展開できるリーダー人材の育成に取り組むとともに、店舗整備の補助を実施。 - 中小企業基盤整備機構:「中心市街地商業活性化診断・サポート事業」(H23)
中心市街地の商業活性化に資する個別事業(認定基本計画に盛り込まれる事業)および協議会等活動に対し、事業の実効性を高めるために、複数の専門家によるプロジェクトチームを編成し、調査・分析等に基づく、助言・診断・課題整理・情報提供等を行う。今回は、店舗の運営を支援するとともに、交流拠点機能を活用して商業活性化への波及性を支援。
5.関係者の声
松山市地域経済課で当時この事業を担当した瀬戸丸崇さんは「本来あるべき商店街の良さ、商店街の人さえも忘れていた商店街の普段の賑わいづくりに貢献できて良かったです。地元の人たちのかけがえのない店舗なので今後も愛されて続けて欲しい」とぎんこい市場にエールを送ります。
「おばあちゃんたちは、きょうはどんな野菜が入っているかなとお店に来るのを楽しみにしています」と向井店長。さらに向井店長は「商店街ツアーでは普段は入りにくいと感じるお店に入って説明を聞けることを喜んでくれています。女性はいくつになってもおしゃれとお買い物は好きですから」。「おばあちゃんたちの喜ぶお顔を見ると私も嬉しくなります。社会に必要な業種としてみなさんに応援いただいていることに感謝しています」とのことです。
6.取材を終えて
(株)愛媛CATVの運営支援を受けているとはいえ、生産者やその知人等からなる店舗スタッフが四国でもっともグレード感の高い商店街で商売を行っているのですが、収入は野菜等の販売手数料ですから収益面で苦戦は免れません。開業にこぎ着けた当時の関係者は投げ出したいと思った時期があったのではないでしょうか。
しかし、ぎんこい市場は補助金等の支援がなくなった今も地域の人々に愛されて存続しています。そこには、店長の向井京子さんとパートタイマーのスタッフをはじめ、(株)愛媛CATV、松山市、愛媛県のそれぞれの担当者の思いがありました。野菜を片手にスタッフが店前を歩くお年寄りにいたわりの声をかけ、それに応えるおばあちゃん。ぎんこい市場には商店街に見られなくなった意思疎通や賑わいの原点があります。
郊外(生産者)とまちなか(消費者)をつなぐことから始まったぎんこい市場は、次のステップとして、メディア間の連携やまちづくり会社のビジョン事業との連携を模索しながら2階の公開スタジオを活用してまちの情報発信を行う拠点となることが期待されています。
まちの概要
規模・人口
松山市は、瀬戸内海に面し、愛媛県中央部の松山平野に位置します。温暖な瀬戸内海気候(平均気温16.3℃、年間降水量1,323mm)で雨は少なく穏やかな気候です。明治22年に人口約3万3千人の全国39 番目の市として発足し、平成17年1月には北条市・中島町と合併して面積約429k㎡、人口約51万5千人(平成25年4月)の四国最大の都市となっています。江戸時代から城下町として栄えるとともに、商業や観光産業の集積地として経済活動等が発展しています。
中心市街地の現況
松山市では、平成20年11月に中心市街地活性化基本計画の認定を受けました。平成26年7月の計画終了後を見据えて第二期計画の検討を行っています。中心市街地には約1kmに及ぶL字のアーケード商店街(大街道・銀天街)があり、愛媛県下を商圏として周辺には飲食店が多数集積し繁華街を形成しています。さらに、官公庁、福祉・文化の拠点施設や、愛媛大学、松山大学等の教育施設、松山赤十字病院、県立中央病院、市民病院等の基幹病院が整備されており、都市機能が中心市街地に集中しています。また、松山城や日本最古といわれる道後温泉等の観光資源があり、城下町ならではの伝統文化の継承、俳句など文化芸術の発信がなされています。
<取材日H25年10月>