下土手町にあらたな複合商業施設「土手町コミュニティパーク」がオープン
ポイント
- 人と人とをつなぐ機能が充実した複合商業施設
- 知恵と工夫を凝らした複合商業施設
- 場所:
- 青森県弘前市
- 人口:
- 18万人
- 分類:
- 【商業施設】【交流施設】
- 協議会:
- あり
- 実施主体:
- NPO法人コミュニティネットワークキャスト
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1.まちの概要
(1)規模・人口・歴史
弘前市は、江戸時代に津軽藩の城下町として誕生し、400年以上つづく歴史と文化の育む、青森県西部・津軽地方の政治、経済、文化の中心都市です。
人口は約18万人(2011年12月)、商圏人口は秋田県北部も含む約58万人を抱えています。
(2)交通アクセス
2010年12月に、東北新幹線が青森(新青森駅)まで開通し、在来線と併せて、東京からの所要時間は、最短で約4時間となりました。また、東北自動車道の大鰐弘前ICから中心市街地までは、車で約20分です。
(3)地勢
弘前市は東に八甲田連峰を望み、西に津軽の霊峰岩木山を有し、南には世界遺産の白神山地が連なり、こうした自然的資源の他、藩政期以降受け継がれてきた歴史的資源が豊富に存在します。 観光面においても、日本一の桜の名所である弘前公園をはじめ、数多くの伝統的建築物が存在します。
中心市街地には、弘前城をはじめ、禅林街、国の重要文化財に指定されている五重塔があり、藩政時代の趣が残っています。併せて、銀行記念館、教会等、明治・大正期の洋風建築などの歴史的文化財も多く存在し、和洋折衷の文化を織りなしています。
さらには、「さくらまつり」をはじめとした津軽の四季を活かしたまつりが開催され、毎年400万人以上の観光客が訪れます。 また、歩道のインターロッキングの模様が伝統産業である「こぎんざし」の模様をモチーフにしていたり、マンホールの蓋が日本一の生産量を誇る「リンゴ」をモチーフにしてあったりと足元にまで気を遣ったデザインがなされている楽しいまちです。
2.まちの現状と課題(平成23年度まで)
(1)まちの現状
市全体の人口は、平成7年をピークに減少を続けています。 弘前市が公表している将来推計人口では、平成27年度に約17万6千人程度まで人口が減少する推計となっており、人口減少が加速度的に進むことが危惧されています。
近年の車社会を背景とした郊外型の商業施設の増加や人口減少の影響を受け、中心市街地内に立地していた大型商業施設「ジョッパル」が平成21年10月に閉鎖し、さらには下土手商店街の中に地元百貨店であり下土手商店街の中にある中三弘前店が平成23年3月11日に発生した東日本大震災の影響等により平成23年3月30日に民事再生申請するなど、中心市街地の衰退が加速しつつある状況にありました。
また、中心市街地の顔でもある土手町商店街(上土手、中土手、下土手の3商店街振興組合)は、長さ約1Kmにも及ぶ商店街で、昔からの名店も多く連なっていますが、大型店の閉鎖等の影響を受けて、近年、歩行者通行量の減少傾向が続いています。
(2)課題
このような状況の中、大型商業施設「ジョッパル」については、弘前市が先導する形で再生が進められることになりましたが、中心市街地の活性化を確かなものにするためには、中三弘前店を抱える下土手商店街周辺地域の賑わいを取り戻すことが喫緊の課題でした。
3.活性化の取り組み
(1)取組の目的
下土手町は、古くから栄えた弘前市の代表的な商店街であり、かつては東北初のエレベーター付の百貨店があったなど、津軽地域はもとより北東北全域から集客できるようなポテンシャルのあった商店街でした。土手町の「路」は日本一の桜を誇る弘前公園をはじめとする観光名所や施設へつながっており、夏にはねぷた祭りの運行コースとして、県内外から多くの観光客を迎える通りとして知られています。
また、土手町を結節点とした「かくみ小路」は、古くから弘前の「歓楽街」へつながる「路」として地元市民に親しまれています。 しかしながら、現在の土手町商店街は郊外の大型商業施設に客足を奪われ、通行量、売上ともに減少の一途をたどり、商店街の各店舗は経営に窮している状況にあります。
このような状況のもと、「土手町コミュニティパーク(DCP)」の事業者は、弘前の経済を活性化させるためには周辺商業エリア全体へ多世代による回遊性を向上させる必要があると考え、昼の街である「下土手町商店街」と夜の街の入り口となる「かくみ小路」の結節点に、街の奥行きを創造する「毎日出かけたくなるまち(拠点)」を新たに整備することとしました。
(2)事業の内容
1.施設のコンセプト
「人・路・情報の交流創造空間」
「人」と「路」が交わり新しい文化が生まれる。
「路」と「広場」と「文化」が織りなすまちなかコミュニティ拠点
2.実施事業
施設のコンセプトを具現化するために、土手町コミュニティパークは、多世代の交流、来街動機づくり、周辺エリアへの回遊性促進、街の新たな付加価値を創造、商店街での滞留性を向上及び芸能・文化活動の促進を機能として取り込み、以下のア)~エ)の4つの事業を実施しています。
ア)情報収集・発信事業
アップルウェーブ(株)によるコミュニティFMラジオ局、動画配信事業を核とし、施設内の大型画面を利用し、行政情報・イベント情報・商店街情報などの市民情報に加え、国土交通省の河川、道路のリアルタイム情報などの防災に関する情報、災害時や緊急時の市民の安全に関する情報を収集・発信できる機能を整備しています。
イ)魅力ある食をテーマとして商業施設の運営事業
現状の商店街にはない、新規性・集客性に優れたテナントや弘前市内にはない新たなコンセプトによる店舗を誘致しています。
ウ)待ち合わせや、たまり場となるような新たな交流拠点事業
学生が同年代を含めて様々な年代の市民と交流できる場、買い物客やバスを待っている間の休憩場所や歓楽街に出かける人々の待ち合わせ場所となりうる機能、また雨天や積雪時でも活用できる広場機能も併せて整備しています。
エ)イベントの企画・運営事業
歴史、文化、交流をコンセプトに、季節やテーマに合わせたイベントを開催し、地域参画型の活動や交流を促進します。
3.施設の概要
施設のイメージは、下図のとおりです。
敷地規模は、1,522.41㎡ 建物はA館-コミュニケーションプラザ(鉄骨3階建/延床面積:784.30㎡)とB館-ごちそうプラザ(鉄骨平屋建/延床面積:715.71㎡)の2棟に分かれ、その間に自由通路である「したどて小路」を整備し新しい人の流れを創造するとともに、イベントや小さなビジネス展開する場として「ポム広場」、「したどて小路」を中心に本施設には、様々な工夫が凝らしてあります。
A館-コミュニケーションプラザは、1階は約240名を収容できる多目的ホールとなっており、気候を気にせずに様々なイベントが行えるスペースとして活用できるほか、イベントが無い日には、一部を開放し市民に待ち合わせやたまり場として活用してもらっています。
2階は、弘前市が運営する起業化支援センターが設置され、新しいビジネスにチャレンジする起業家を支援する体制を整えています。
3階は事業主体であるアップルウエーブ㈱が本社機能を移し、本施設の管理・運営と放送事業を実施しています。
B館-ごちそうプラザは、北東北初出店となる店舗等これまで弘前に無かった新しいコンセプトの食に係る7店舗を配置し、連日賑わいを見せています。
屋上ガーデンは、雨天時でも利用できるよう東北初の「大型エアドームテント」を装備していますので、天候を気にしないで安心してイベントや各種パーティの企画が可能となります。
施設内の屋外通路ではFMアップルウェーブをオンエア。街の様々な情報や交通・災害時の緊急情報を外にいても知ることができます そのほか本施設には様々な工夫がされていますので、一部をご紹介いたします。
災害時には多目的ホール、屋上ガーデンを避難所として開放します。
災害時に備えコミュニケーションプラザに“自動起動型発電装置”を設置しています。
ポム広場のベンチの一部には“かまどベンチ”を採用しています。
「したどて小路」はロードヒーティングなので、雪の日も安心して歩行できます。
4.事業の波及効果
(1)新規雇用の創出
新規出店となる7つのテナントと事業者の業務拡張等により土手町コミュニティパークで働く者が約60人以上増加しています。
(2)来街者の増加
施設が実施する各事業、イベントにより、平成24年10月から平成25年2月の5ヶ月間で、111千人以上の方が「土手町コミュニティパーク」に来街されています。
(3)空き店舗の解消
下土手町交差点から蓬莱橋(ほうらいばし)の約250mの区間で空き店舗が解消されました。また、隣接する「かくみ小路」においても3店舗の新規開店があり、空き店舗は残り1店舗となりました。
(4)その他、周辺地域への波及効果
当施設の人気テナントの満席状況等により、周辺飲食店へ来街者が流れており、「下土手町」、「かくみ小路」の飲食店の売上・客数が増加しています。この影響からか、店舗のファサード等の改装を実施した店舗が3店舗出てきました。 「土手町コミュニティパーク」最寄り立体駐車場のスカーイパークにおいては、活性化事業「土手町・鍛冶町ランチ街道」と連携してより来街機会を創出するため、11:00~14:00の時間帯を無料化したところ、駐車場利用者数が平成24年12月実績において前年度比160%、現金売上134%、無料駐車券販売数134%となりました。
5.今後の課題
(1)商業施設としての魅力の維持
すべての商業施設に言えることですが、移り変わる市民のニーズを的確に把握し、商業施設としての魅力を如何に維持していくかが、長期的な視点での課題となってくると思われます。 スタートは上々でしたので、さらなる認知度アップと周辺の商店街との連携を強化していくことも必要であると思われます。
(2)起業家を生み出す仕組み
土手町コミュニティパークが飲食に関して創業・起業する事業家の活動するフィールドとして工夫が凝らされているため、弘前市が運営する起業家支援センターと施設所有者であるアップルウェーブ㈱との連携を密にしていくことが重要だと思われます。
6.現地訪問を終えて
中小機構東北本部では平成22年度から弘前市のまちづくりのお手伝いをさせて頂いていますが、土手町コミュニティパークの整備後は、下土手町を歩く人の量と層が確実に変わってきたと感じています。
今後は、駅前の再開発ビルのリニューアルオープンが控えていますので、弘前市の中心市街地の活性化が進むことを期待しております。
<取材日H25年4月>