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商店街の中に現れた植物工場
~障がい者の自立支援を行う特定非営利活動法人の挑戦~

ポイント

  • 空店舗を活用した植物工場事業
  • 地産地消の推進
  • 障がい者の自立支援を促す取組
場所:
沖縄県沖縄市
人口:
13万人
分類:
【空き店舗・空きビル】【医療・福祉】【コミュニティビジネス】
協議会:
あり
実施主体:
特定非営利活動法人 初穂
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1.まちの概要

(1)規模・人口・歴史

沖縄市中心市街地の商店街

 沖縄市は、沖縄本島のほぼ中央部に位置し、人口約13万人を有する中核都市です。市域面積の1/3強を米軍施設が占め、戦後嘉手納基地の門前町として発展してきました。

(2)交通など

 鉄道がなく公共交通はバスのみとなります。県庁所在地の那覇市から沖縄市へは4社が運行し、高速バスをはじめとする多くの路線があります。また、自家用車も移動手段の中心となっています。

(3)まちの特色

 戦後27年間に及ぶ米軍統治下において、沖縄市では従来の地域文化にアメリカを中心とする多様な文化が取り込まれ融合した「チャンプルー文化」の代表ともいえる「コザ文化」が形成されてきました。コザ文化は音楽をはじめとして、芸能、アート、ファッション、食、そしてライフスタイル等に影響を与えています。

(4)まちの現状

 沖縄市中心市街地の主な商業集積地区は胡屋(ゴヤ)地区とコザ地区の2地区です。両地区ともに小売販売額や歩行者通行量の減少、空店舗の増加など商業を取り巻く環境は年々厳しさが増し、求心力の低下が著しくなってきています。平成22年度に中心市街地活性化基本計画の認定を受けた沖縄市は現在、県内唯一の認定地域として様々な活性化事業に着手しています。

2.事業主体

 特定非営利活動法人 初穂(以下、「初穂」という。)は、平成23年に障がい者の自立支援を主目的として設立されました。障がい者の職業訓練と修了生の企業への就職斡旋を積極的に行っています。例えば、CADの習得には実際に企業から図面作成を受注し、「訓練=仕事」として実践的な経験を積んでいます。平成24年度はこれまでに3名が就職しています。 初穂は沖縄市中心市街地にある一番街商店街に2年前に拠点となる「えむの里」を開設しました。仲原エムリ理事長は、「障がい者を自立させるためには、表に出ることが必要である。商店街はバスの利便性も良いので、自分でバスに乗って来られる。まちの中で皆と同じように、地域の人たちと触れ合うこと、コミュニケーションを取ることが必要である。」と言われます。「地域コミュニティ」の場としての商店街の意義やポテンシャルを、福祉を通して再認識させられる言葉です。その初穂がこの度、「植物工場」にも取り組むことになりました。

3.事業経緯・内容

植物工場の作業風景

 植物工場とは、室内において光や温度、養分を人工的にコントロールし、計画的に野菜を栽培するシステムのことを言います。初穂の取引企業(ペットボトルのリサイクル事業)が2年前から植物工場の事業を始めたのをきっかけに、初穂からも4名が出向いて、その技術習得を行ってきました。平成24年度沖縄市が中心市街地活性化事業の一環として空店舗を活用した植物工場事業を公募したところ、初穂の提案が採択され平成25年1月、オープンの運びとなりました。

 一番街にある床面積110㎡(約33坪)の空店舗を賃借し、栽培棚3基(7.6m×4段×2基、5.6m×4段×1基)の他、クリーンルーム、播種及び育苗室、バックヤード、そして洗浄室を整備しました。生産品目はカットマン(リーフレタス)、フリルアイス(リーフレタス)、小松菜、サンチェ、ルッコラ、レッドマスタード、アイスプラント等の葉物野菜7種類を栽培しています。栽培方法は14時間継続して160本の蛍光灯から光を当てた後、10時間の消灯を繰り返しています。また、土を使用しない水耕栽培のため、液肥を溶かした水を30分間循環させて1時間停止させるサイクルでタイマー管理をしています。作業は新規に雇用したスタッフ3名と支援員の4名で、月曜日から金曜日までの朝9時から午後4時半まで行っています。作業員はエアシャワーによる粉塵除去、アルコール消毒、防御服の着衣(マスク、手袋、衛生帽)等をして入室するよう衛生管理が徹底されています。出荷規格を固定することで、屋外栽培に比べて1.2~1.3倍の速さで収穫し、4段の棚栽培なので、単純計算でも面積当たり4.8~5.2倍の収穫量が見込め、季節を問わず年中栽培できることを考慮すると、効率的な収穫が期待できます。1年目は約9tの生産量と960万円の売上を目指しています。

植物工場

 根路銘隆事業部マネージャーは、「無菌に近い状態にして無農薬で栽培するので、安全安心である。」「不良や欠損が殆ど生じないので、100%商品化を目指している。」「地産地消の推進につながり、沖縄市の自給率アップにも寄与する。」「台風や災害に遭わないので、安定供給が可能である。安定供給が可能なため、価格も一定に保つことが出来る。」とその強みを語っています。

 現在、植物工場前で朝9時半から午後4時まで毎日、「採れたて」が販売されている他、一番街商店街の小売店にも出荷しており、徐々に植物工場の生産物が地域に認識されつつあります。

4.取組みの効果

自然織

 平成25年1月にスタートした事業のため、未だ効果測定が出来る時期ではありませんが、商店街の小売店に出荷を始めるなど地域でのネットワークが構築されつつあります。また、初穂は現在、商店街の清掃活動を自主的に行っており、今後は一番街&サンシティ商店街フリーマーケットへの参加や商店街と連携した朝市の開催等にも意欲をみせています。

乳酸菌発酵島豆腐

 初穂の事業は多彩で今後、商店街のまちづくりとも連携できそうなものが沢山あります。その中でも印象的なのが「自然織作業訓練」と「乳酸菌発酵島豆腐製造作業」の2点です。「自然織作業訓練」は沖縄市の市花であるハイビスカスを活用します。ハイビスカスの幹から50日ほどかけて繊維を取り出し、草木染を施した後に専用の織機で織り込むものです。出来上がった布は財布やコースターなどの小物に加工されます。指導をする赤嶺武子支援員は、「草木染めは桜や玉ねぎなど色々な素材を使うが先日、偶然に赤大根を使用したところ良い色が出た。」「精神的に落ち着く。静かな気持ちになれる。訓練生も1年を過ぎたら成長の跡が目に見えて分かる。」とやりがいを語っています。「乳酸菌発酵島豆腐製造作業」は沖縄伝統の島豆腐を発酵させることによってアミノ酸含有量を約30倍までに高めた健康食品です。地域の資源を活用したオリジナリティあふれる工芸品や商品開発は、初穂の明確なビジョンが具現化されたものです。仲原理事長は、やがては訓練生には「自然織」や「乳酸菌発酵島豆腐」等を観光客に体験してもらうインストラクターとして自立してほしいと考えており、「観光と福祉を結び付ける」ことが意図されているのです。更に、「今後、加工場を商店街の中につくりたい。飲食店も商店街の中につくりたい。雇用できる場を商店街の中で実現させたい。」と事業構想も膨らんでいます。商店街のまちづくりと初穂の活動が連携することによって、新たな商店街の在り方が提示されることが期待されます。

5.今後の課題

 根路銘マネージャーは、「販路拡大、販売ルートの構築」を大きな課題として挙げています。大手スーパーマーケット等から納入契約の話もあるそうですが、中心市街地活性化事業という位置付けが前提にあるため、一番街商店街やゴヤ地区、地域の飲食店やホテルとの関係づくりをしていきたいと地域密着型を強く意識しています。中心市街地活性化事業はそれ自身が単独で成り立つものではなく、地域コミュニティの形成と表裏一体であることを示唆する言葉として興味深く拝聴しました。

6.関係者の声・まちの声

 沖縄市中心市街地活性化協議会の広瀬陽タウンマネージャーは、「商店街の空店舗をあのように活用するのは画期的なこと。様々な方面からの問合せも多い。自分も実際に食べたが、味も良く美味しい。今後、どのような展開をしていくのか興味深い。協議会とも連携を取って活性化に取り組んでいければ良い。」と言い、商店街の新たな機能や形態に注目しています。

7.取材を終えて

植物工場の野菜

 スリットからこぼれる光に近寄って室内を覗くと、凛とした空間に生命力溢れる緑の葉野菜が並び、不思議な雰囲気を感じたのが植物工場の第一印象です。寂しくなった商店街の一角に生命力を湛えた宝石箱が置かれているようで、この光景から「再生」というイメージを想起させられました。

 今回の取材を通して教科書的ではありますが、コミュニティ形成の役割を担う「商店街の必要性」を改めて考えさせられました。また、初穂の活動は誰もが暮らしやすいまちづくりを実現するための第一歩であると共に、「自立」を求めることによって活動の多様化を生み、かつ可能性を引き出していくことに繋がっていることを教えられました。全国の空洞化が進む商店街に今、一番求められている「姿勢」を初穂の活動の中に垣間見たといえます。初穂の更なる事業展開と商店街及び地域との連携に期待せずにはいられません。

<取材日H25年2月>