シニア、子ども、多世代がおたがいを見守る「三世代見守りMAP」
ポイント
- 高齢者と幼児と親との三世代間交流
- 商店街と地域の連携
- 場所:
- 福岡県福岡市中央区唐人町
- 人口:
- 149.6万人
- 分類:
- 【医療・福祉】【コミュニティビジネス】
- 協議会:
- なし
- 実施主体:
- (株)フラウ主婦生活総合研究所、チーム・ミマモリ~ナ
- 関連記事:
- ふくおか認知症啓発(㈱フラウ主婦生活総合研究所)
- Facebook唐人町周辺エリアミマモリ~ナ
1.まちの概要
(1)規模・人口・歴史
福岡県福岡市は、九州一の人口149万人が暮らす政令指定都市で、福岡県だけでなく九州管内においても、中心都市としての役割を担っています。
唐人町は、福岡市の中心街である天神地区から西に3.5㎞に位置し、福岡市営地下鉄で唐人町駅から天神駅まで5分、博多駅までは11分と交通利便性は非常に高い地域です。
まちの“顔”でもある唐人町商店街の歴史は古く、400年前の江戸時代、参勤交代が行われた唐津街道周辺に商売を行う町屋が自然発生し、発展していったといわれています。
今なお商店街のアーケードの中を唐津街道が東西に貫き、エリア内には由緒ある寺社が密集しており、新旧合わさった不思議な魅力が溢れるまちです。
(2)まちの現状
現在の唐人町は、唐人町商店街を中心とした商業地区と住宅地区から形成されていますが、唐人町周辺の住宅地化は終戦後に進行しました。1990年以降からは再開発が進み、現在も高層マンションの新築が相次ぐ、様々な世代や家族形態の人々が暮らすエリアです。また、唐人町周辺には、小学校から中学校・高校・短期大学と多くの学校があり、文教地区も形成しています。なお、唐人町駅は福岡ヤフオク!ドームの最寄駅でもあり、地元野球ファンにとっても馴染み深い場所となっています。
2. まちの活性化への取組
(1)まちの課題
福岡市では、人口に占める『高齢化率』(65歳以上)の割合が17.8%、およそ6人に1人が65歳以上となっています。また、この10年間に市の全人口は約8%増加しましたが、65歳以上の人口は約42.7%も増加しており、介護や認知症・一人暮らしの高齢者に対するサポートの必要性が高まっています。
また、核家族化と少子化により、虐待や育児不安・母親の孤立化など、子育て世代を取り巻く問題も地域福祉の抱える課題の一つとなっています。
(2)三世代見守りMAP製作のきっかけ
このような時代背景から、地元福岡で地元密着の子育て雑誌の発行を行う「㈱フラウ主婦生活総合研究所」(福岡市中央区)の呼びかけで、「そこに暮らす人がお互いに見守り『ひとりぼっちを作らない』」をキーワードに、高齢者や子育て世代に役立つ情報を盛り込んだ唐人町商店街と、その周辺の地図作りが行われました。
地域の安心安全マップを作りながら、子育て支援や高齢者に優しいお店などを広く地域に知らせ、いざというときに助け合える関係づくりにつなげることで、虐待を受けた子どもや孤立した親、認知症状のある高齢者などを素早くサポートできるまちづくりを目指す取組みです。
(3)事業内容
概要
マップの製作にあたっては、㈱フラウ主婦生活総合研究所と、地元のシニアの地域おこしグループや育児支援に携わるグループ・高齢者の賃貸住宅問題に取り組むNPOなどで結成された「チーム・ミマモリ~ナ」が連携し、商店街を始めとするお店や施設の協力を得ながら製作が進められました。
初版は平成23年12月に完成し、28店舗の情報1,000部を無料配付したところ、買物客などに好評ですぐに配布を完了。増刷を望まれたことから、新たにリニューアルして増刷することが決定。昨年夏から改訂版づくりが始まりました。
平成25年1月に完成した改訂版は、掲載した協力店や施設の情報も2倍以上になり、内容が更に充実。部数も初版の5倍、5,000部を発行しました。
マップの内容は、段差やベンチ・トイレ・AEDなどの情報に加え、高齢者や子育て中の親に嬉しい商品やサービスの紹介と、裏面には相談先の電話番号や、早期発見が欠かせない虐待や認知症に関するチェックリストが掲載されたものとなっています。
また、改訂版についてはFacebookでも展開しており、まちの最新情報がいつでも分かるようになっています。
製作の過程
① 「三世代見守りMAP講座」(全3回)の開催
まずは作戦会議、ということで「三世代見守りMAP講座」(全3回)をスタート。参加者は地域で活動するボランティアやNPO、大学の地域連携の方、主婦の方など様々。
いろいろな分野・立場からの視点で、現状の課題やどんなマップにしたいのか、そのマップを活用してどのような見守り活動ができるのか、熱い討論が繰り広げられました。
また、実際にまちを見て歩いたり、商店街を取材しながらマップに必要な情報を集め、地図に落とし込む作業を進めていきました。
② 参加型マップを商店街内に設置
その地図原案を商店街内に張り出し、通りかかる人にそれぞれが知る便利な施設や店舗、休憩所、子どもにとって危険な場所などの位置を書き加えてもらうことにしました。
期間中の商店街イベントなどを利用して、書き込みはどんどん増えていき、多くの人が関わる参加型マップになりました。
③ 初版の完成
そうやって出来上がったマップに、掲載する各店舗の意見を加えて完成です。印刷したマップは、協力してくれた店舗や施設に設置してもらいました。
④ 改訂版製作に向けて
初版が買物客などに好評で、増刷の要望を受けたことから、改訂版の製作を決定。メンバーも「チーム・ミマモリ~ナ」と名付けられ、よりよい取組みに向けて動き出しました。
3.取組の効果
このように、地域の中で様々な世代が「お互いさま」と見守りあうことを目指した取組みですが、製作の過程で生まれた多様なコミュニケーションも、今後のまちづくりの資源になることが期待されます。
また、見守りが防災・防犯などの面でも生活環境の維持・向上につながること、マップを見た普段商店街を利用しない人に、商店街のよさを知ってもらえるなど、波及効果も期待できます。
4.今後の課題と対応
マップの反響から、地域の方々の関心の高さは伺えますが、「三世代見守り」が浸透するには時間がかかり、継続的な取組みが必要です。
また、地域と商店街・医療機関・行政等との更なる連携強化を図ると共に、新たな連携先・可能性を模索すること、例えば、周辺に学校が多いことから、教育関連とのコラボレーションなども考えられると思います。
取材を終えて
福岡市の中心部にありながら、下町情緒あふれる唐人町商店街。ここに来ると、お店の人と会話を楽しむ常連客や、立ち話に花が咲くご近所づきあいの姿などが見られ、心が和みます。
商店街の方々に伺うと、お客さんへの声掛けや見守りは、自分たちの役割として当たり前のことと話されます。私自身が唐人町に通う中でも、急な雨降りには傘の心配を、日の暮れが早くなる季節には、帰り道の用心について声を掛けてくれるなど、折に触れての心遣いにコミュニケーションの重要さを実感してきました。
また、お店に取材を進める中で、高齢化に関する問題が深刻化している事が分かりました。例えば、お会計がわからない、自宅への帰り道に迷子になってしまうお客さんが増えている、ということです。もちろんお店側として出来る限りのケアをしていますが、地域社会と連携した取り組みの必要性と、今回ご紹介した見守り活動・仕組みづくりの意義が見えてきました。
商店街の役割と機能を活かしたこの取組み。様々な世代間のコミュニケーションが育む、安心して暮らせるまちづくりと、その屋台骨である商店街の活性化、こだわりの食材や商品が取り揃い、人情味いっぱいの唐人町商店街の魅力発信につながって欲しいと願います。
<取材日H25年2月>