小中学校の開設でまちに賑わいが復活
ポイント
- 教育施設によるまちおこし
- 活発化した市民活動
- ものづくりのまちへのこだわり
- 場所:
- 広島県府中市
- 人口:
- 約4.2万人
- 分類:
- 【教育・文化】【遊休地】
- 協議会:
- あり
- 実施主体:
- 府中市、(株)恋しき、府中商工会議所
- 関連記事:
- 府中学園
- 恋しき
- 府中商工会議所(産業観光・体験ツアー)
1.まちの概要
府中市は広島県の南東部、南に福山市と尾道市に接する人口約42,000人の内陸工業都市です。
交通はJR福塩線で福山から45分、車だと30分です。
産業は地場産業として歴史のある家具製造と味噌が有名で、東証1・2部上場の電動工具、工作機械、接着剤メーカーの本社があります。ユニークなところではラジコンヘリコプターメーカーの本社もあります。このように「ものづくり」が盛んなため、夜間人口より昼間人口の方が若干多くなっています。
2.まちの活性化への取組
(1)まちの課題
人口減少が1970年代から一貫して続いており、2004年に編入した上下町域を含め1970・2010年比で3割弱減少しています。このため中心部の商店街は車による福山市への購買力の流出もあり店舗が減少し、まばらで大変厳しい状況となっています。また製造業も経営環境は厳しいものがあります。このことから何も対策をとらずこの状況が進んだ場合、中心部と周辺部の衰退が徐々に進行し、人口の拡散、都市機能・社会インフラそして公共交通の維持が困難になってしまう可能性が指摘されていました。
(2)取組内容
(ⅰ)統合小中学校(府中学園)の開設
2004年に府中駅近くのJTの工場が撤退し、大規模な空地が発生しました。一方同工場近くの中学校学区内の4つの小学校では児童数の激減(4校合計でピーク時の8割弱の減) により何らかの対策が求められていました。そこで県内初という小学校と中学校が合体した 9年一貫教育という市立統合小中学校が2008年に開設されました。もともと街なかにある中学校の学区内なのでスクールバスはありません。児童・生徒1,000人以上が毎日元気に 徒歩で通学しています。これに教職員などが加わり、平日の市内6地点の歩行者・自転車通行量は1,500人以上増え一挙に目標数値を超えました。
ところで良い影響は通行量だけではありません。朝夕の通学時は子供たちで賑わい、まち に活気を与えています。地域住民と子供たちの交わす挨拶は微笑ましいコミュニケーション を生み出し、地域住民の間からは自発的に「子ども見守り隊」が結成されました。現在、開 校して5年目を迎えていますが、教育内容と環境が評判を呼び、学区内(中心市街地区域)への転入希望者が増えています。
(ⅱ)「恋しき」の保存・再生
国登録の有形文化財である「恋しき」は、府中学園の南に位置する、地元経営者に「将来は 成功してここで食事をしたい。」と言わせた、実業家や文化人が集う木造3階建の老舗割烹旅館でした。1990年に惜しまれつつ廃業しましたが、地元有志の熱い呼びかけにより(株) 恋しきが設立され、おみやげ処・食事処として再開されました。これがマスコミに紹介され 周辺の道路などの環境整備も相乗効果となり、市民や観光客が訪れる ようになりました。現在、より効果的な拠点となるため11月のリニューアルオープンに向け整備中です。
(ⅲ)多目的広場の整備
多目的に使える広場が「恋しき」の斜め正面に整備されました。規模はさほど大きくはありませんが、区域内に は他にこのようなオープンスペースがないため、様々なイベントに使われ賑わいを創出しています。現在、毎月1回「新鮮朝市」が開かれ賑わっており、地元有志による夜店の復活や 地元名物の備後府中焼き(お好み焼き)も出場するB級グルメのイベントなどが開かれています。
(ⅳ)産業観光・体験ツアーの開催
ものづくりのまち府中を市内外の方々に認識しても らうとともにまちに賑わいをもたらすことを目的に、商工会議所 主催で「産業観光・体験ツアー」が開催されています。
出発駅はコースにより福山駅と広島駅になっており、参加費は3,500円からですが、夏休み中に開催された親子ものづくり体験コースの5回はすべて満員で好評を博しています。
(3)取組の効果
様々な取組によりまちに賑わいが戻りつつあります。区域内の道路では歩道の拡幅を含む整備が進み、 歩行者や自転車通行量が増えまちに活気と明るさが生まれています。これを背景として住民に中心市街地を自分達自身が盛り上げる場にしようとする気運が高まってきています。まちおこしを目的 とするNPO法人も設立されました。目標数値の店舗数は開店が閉店を上回るようになり、基本計画終了時には目標としていた現状店舗数を1店舗上回りました。
ところで、これらの取組は決して大規模なものではなく、人口10万人を超える地域からは小 規模なものに見えると思います。これは計画が「身の丈にあったまちづくり」をしようという視 点でつくられたからで、それが功を奏したようです。統合小中学校の明るく元気な子どもたちの声が住民相互のコミュニケーションを活性化させ、老舗店の再生は多くの市民に地元の名店を再び思い起こさせ、手頃な広さの広場は地域内の様々なグループの自主イベント開催のハードルを低くしました。
多くの市民の自発的なまちへの関わりの活発化、実はこれが数字では表れない大きな成果とな っています。
3.今後の課題と対応
明るい状況が見えてきた府中市ですが、依然として人口減少は続いており、商店街に店舗はまばらです。しかし、計画は1事業を除きすべて達成しており、この1事業も達成のメドが立っています。目標数値も通行量の増加と商店数の維持はクリアしました。
今後の方向について、府中市まちづくり課の日野氏にお聞きしました。
「基本計画は全体的に良い結果を出すことができました。予想外の市民の自発的なまちおこしへの参加は心強い限りです。今後は市内の公共交通の改善が必要と思っています。高齢化が進むなか市内交通アクセスの整備を重点とした2期基本計画の策定を進めているところです。」
4.取材を終えて
公立の小中9年一貫校による活性化というユニークな取組には驚かされました。しかも、その効果が良好なコミュニティづくりや居住人口の増大にも影響を与えています。教育成果も高く表れているそうです。新しい活性化策のひとつとして興味深く取材することができました。
<取材日H24年9月>