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中心市街地活性化協議会支援センター

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まちづくり事例さまざまな市街地活性化課題解決のヒント
まちづくり事例

商店街自らが不足業種充足のSCを建設

ポイント

  • 来街者アンケートで業種、施設を選定
  • 行政、商工会議所、商店街の緊密な連携
場所:
長崎県諫早市
人口:
約14万人
分類:
【商業施設】【まちなか居住】【空き店舗・空きビル】
協議会:
あり
実施主体:
諫早市中心市街地商店街協同組合連合会
参考URL:

http://www.aer-shoutengai.com/index.html 別ウィンドウで開きます

1.まちの概要

(1)規模・人口

諫早市の位置

諫早市は長崎県のほぼ中央、島原、長崎、西彼杵半島の根元に位置し古くから交通の結節点として整備が進められ、4本の国道とJR、島原鉄道が交差しており、長崎空港からは高速バスで35分です。工業は諫早中核工業団地を中心に、半導体や航空宇宙関連の企業が進出しており、農業は県内最大の穀倉地帯です。平成17年に5町と合併し、人口は約14万人です。

2.まちの活性化への取組

(1)まちの課題

諫早市中心部はもともと商業地として賑わっていたことから、昭和47年に大型店2店が相次いで出店してきました。地元商店街は大型店とは競合せず共存共栄の関係が約30年続いていました。ところが平成10年に1店が、さらに平成17年には残った1店も撤退することになり、2店目の撤退では生鮮品を扱う小売店が商店街になくなってしまうという状況になってしまい、地域住民にも大きな影響が及ぶことになりました。撤退の背景として近年の交通網の整備とモータリゼーションの進展により郊外店が増加し、これによる中心市街地の販売額の落込みがあります。

特に諫早市では、都市計画に沿って大型店の市街化調整区域への無秩序な出店を規制していたため結果的に諫早市外の近隣都市への出店が促進されてしまい、消費者の市外への流出が大きくなってしまうという状況がありました。

中心市街地区域図

(2)取組内容

諫早市の活性化への取組は、平成10年の大型店の撤退時から本格的にスタートしました。

平成10年の1店目の撤退時に、行政、商工会議所、商店街(以下「三者」という。)は今後のまちづくりを視野に入れた取組を素早く開始しました。平成11年に行政は「諫早市中心市街地活性化基本計画」を策定し、商工会議所は「TMO」の認定を受け、商店街は撤退大型店の立地していた中央通りの3商店街が連合体として「諫早市中心市街地商店街協同組合連合会(以下「商店街連合会」という。)」を設立しました。商店街連合会では、まず自分達の商店街の目標と運営の約束事を成文化した「まちづくり協定」を策定し、店舗ファサードや看板等の統一的整備、通りや店舗内のバリアフリー化など、できるところから少しずつ整備に取組みはじめました。さらに平成12年から協定に沿って、3商店街のアーケードや歩道の整備を各年度、計画的に順次実施するとともに、行政は中心市街地の活性化と投資の促進を図るため、協定に沿った店舗改装や商店街への出店を支援するため、一部経費の補助や低利融資を内容とする「まちづくり協定支援事業」を創設しました。

そして平成17年に2店目の大型店撤退を迎えます。撤退発表の1週間後には三者による対策連絡協議会が立ち上がり、地権者や撤退店との交渉、新テナントの誘致、撤退の影響調査、老朽化していた建物の取扱い等の複雑な作業に着手、その結果商店街連合会が建物を撤去し新たに店舗を建設することになりました。入居する業種は来街者へのアンケート結果により選定し、要望の多かった無料駐車場(106台)も設置、また情報発信施設(CATV局)や市内の大学との連携による生涯学習施設も設けることにしました。店舗名は「アエルいさはや」とし、撤退からわずか1年4カ月後の平成18年6月にオープンしました。

いさはや市場

ちなみに「アエル(AeR)」はギリシャ語で、英語では「エア(Air)」、人と人とがここで会い、快適な時間を過ごす空間・場所というイメージで命名されました。

これらの取組を背景に、平成19年末に商店街連合会が主力になりまちづくり会社「(株)まちづくり諫早」が、1カ月後の翌年1月には「諫早市中心市街地活性化協議会」が設立されます。そして平成20年7月には「基本計画」が認定されました。

(株)まちづくり諫早は、アエルいさはやの駐車場管理や撤退した1店目の大型店の空き店舗に設置(平成20年12月)した「いさはや市場」の運営を行っています。駐車場はアエルいさはやの2階と屋上にありますがアエルいさはや専用の施設ではありません。買物以外の用事で来た方も90分まで無料で利用できます。いさはや市場は、ローカルブランドの育成を目的に、「農家からのおすそ分け」をキャッチフレーズとして260名の農家からPOSによる在庫管理に基づき仕入れた産直農産物や加工品の販売所として運営されています。

レストランタック

ところで、商店街の中にユニークなレストランがあります。体の不自由な人たちの雇用を支援するNPO法人が運営する「タック」です。日中に軽食と定食を提供していますが、お昼の定食だけで1日70食以上の利用があります。タックは競売にかけられていた空き店舗を商店街が引受け、ここに入居してもらった店舗です。

最近の取組として、商店街連合会が提唱する「明るく安全・安心なエコ商店街」を実現する太陽光発電施設の設置があります。アエルいさはやの屋上に設置した太陽電池パネルにより(1)商店街アーケード照明のLED化、(2)防犯カメラの設置、(3)公共無線LAN設備の設置、(4)電動車いすの充電設備の設置が平成23年11月に実現しました。

さらに、まちなか居住の促進として店舗併設マンション(アエル1[アエル栄])が平成20年に竣工し全30戸が完売しています。

商店街連合会の平野吉隆理事長は商店街の取組についてこのように語っています。

「求められ、できることは何でもしています。リスクを負うこともあります。すぐには売上増につながらないことや一見商業と直接関係がないように見えることでも来街者が増えるのであれば取組んでいます。地元の農業高校や商業高校の文化祭や授業にも商店街を利用してもらっています。また、まちなかに居住者を増やす計画にも積極的に協力しています。」

3.取組の効果

太陽電池パネル

商店街連合会が運営する「アエルいさはや」と(株)まちづくり諫早が運営する「いさはや市場」は、ともに市民から好意的に受入れられ定着し、経営も安定しています。

 まちなか居住では、アエル1の完売に刺激され民間マンションが2棟(合計87戸)商店街区内に建設されました。これにより地元商店街での買物客が持ち直しています。

 ところで、施設で注目したいのはアエルいさはやにある駐車場です。ここの回転率は一日平均9回を超えています。駐車場利用者はここを起点に買物、食事、用事と商店街や周辺を回遊します。

 太陽光発電ですが、これにより電気料金が下がり商店街の経費負担が大幅に軽減しています。防犯カメラも大活躍です。年末にかけ発生したひったくり事件の犯人が3人もつかまり、地元警察から感謝状が贈られました。

4.まちの声

買物に来ていたご婦人方に、「アエルいさはや」と「いさはや市場」のことを聞いてみました。

「どっちも近いし便利で良いですよ。比べることもできるし。」「いさはや市場は町ごとに野菜が並んでいるので楽しいです。」「お値段も割安だと思います。」これを聞き両店が地域住民の日々の生活にしっかり根を張っていることを感じました。

5.取材を終えて

横断幕

取材日の早朝、ロンドンから体操の内村航平選手が個人総合で金メダル獲得というニュースが入ってきました。諫早市は内村選手が育った地元です。商店街のアーケードに「おめでとう!」の横断幕を取付けようと商店街と商工会議所が動き、地元信用金庫の支援も調整し、お昼過ぎには横断幕が完成、午後には取付完了、あわせて店舗に掲示するポスターづくりに着手と取組の手際良さを見ることができました。


<取材日H24年8月>