まちの中でつながり広がる ~札幌オオドオリ大学~
ポイント
- まちを知ることで人がつながる
- つながることが新たなつながりや動きを生む
- 若者がまちづくりに参加する取組み
- 場所:
- 北海道札幌市中心市街地(大通り地区)
- 人口:
- 192.2万人
- 分類:
- 【イベント】【教育・文化】【研究会・勉強会】
- 協議会:
- なし
- 実施主体:
- 札幌オオドオリ大学
(札幌大通まちづくり会社)
- 参考URL:
- 札幌オオドオリ大学
1.まちの概要
札幌市は、石狩平野の南西部に位置する日本最北の政令指定都市です。計画的に開発された都市の周辺には、江別市、北広島市、恵庭市などのベッドタウンがあり、札幌都市圏を形成しています。市内には観光施設が点在し、大通り・すすきの地区、駅前には百貨店や専門店など多くの商業施設が集積しています。交通機関の便も良く、名実ともに北海道の中心といえるまちです。
市内の大通り地区は、多くの人々が行き交い、にぎわいを見せていますが、数々の課題を抱えています。
まず、東日本大震災の影響などにより、経済環境は厳しい状況にあります。大きく落ち込んでいた観光客数に回復傾向がみられますが、個人消費は伸び悩んでいます。 次に、札幌市を含む北海道の経済的な地域特性として、公共事業、観光産業への依存度が高い一方、自動車製造業のような裾野の広がりがある製造業が他地域に比較して少ないことが挙げられます。有効求人倍率の他地域との格差は好・不況時を問わず、継続的に見られます。また、賃金水準も全国平均より低く、1人当たり市(都)民所得(平成20年度)は対象の政令指定都市の中で最下位です。
さらに、大通り地区を取り巻く商業環境は大きく変化しています。従来札幌市の中心市街地といえば、大通りを指しましたが、札幌駅前の百貨店開店(平成15年)を契機に、駅周辺の商業施設や飲食店が充実してきました。また、既存の郊外店のほか、近年アウトレットモールが開店するなど、他店との競合はいっそう厳しくなっています。また歴史のある狸小路商店街など老舗の事業承継も大きな問題のひとつです。
2.まちの活性化への取組み
(1)札幌オオドオリ大学(通称:ドリ大)とは
現在各地で、まちの活性化への取組みが見られますが、平成18年に地域密着型の新しい教育のカタチを目指した「シブヤ大学」が開校しました。大学と称していますが、正規の大学ではなく、生涯学習を推進するNPO法人です。まちをまるごとキャンパスにし、「教える」と「教わる」を自由に行き来できる教育をもとにした多岐にわたる講義内容は人気を集め、各地に広がりを見せています。ドリ大はシブヤ大学ノウハウ移転事業3番目の姉妹校として、平成22年2月に開校しました。
運営メンバーは、学長、事務局長、企画、授業を企画するコーディネーター等の16名です。そして先生(現在106名が登録)は、それぞれの得意や問題意識を持つ講座を担当します。授業は毎月第2土曜日、授業料無料で誰でも生徒になれます。無料で実施できるのは授業協力企業(協賛企業)があるからです。
登録学生数は約1,300人、受講者の年齢層は幅広く4歳から84歳、主な受講者層は30代の女性です。満員締切となる講座も多く、ドリ大の人気は口コミなどでさらに広がっています。
(2)まちの活性化とドリ大の活動
大通り地区では、札幌大通まちづくり会社がまちの活性化事業を行っており、ドリ大の活動もその一環です。ドリ大の事務局はまちづくり会社にあり、協力関係にありますが、財政支援は受けていません。また、講座の設定は科目のバランスや季節性を考慮しますが、基本的には自由で、例えばドリ農部という郊外での活動(畑の授業)もあります。
しかし、「自分たちが楽しいと思うことをやろう。」の結果として、まちに関する講座が数多く開催されています(下図)。
一見すると若者たち(猪熊学長は20代!)が自由奔放に活動しているようですが、服部事務局長(札幌大通まちづくり会社取締役統括部長)が、会社設立時からまちづくりの調整役を担い、周囲の協力を得てきたことがドリ大の活動の基盤となっています。
一方、ドリ大でも、ホームページ、学長のブログやツイッターでの情報発信のほか、『クマータス』(学長責任編集)など印刷物の発行も頻繁に行っています。また受講対象者が来店しそうなカフェにパンフレットを置くなど地道な活動も欠かすことはありません。
3.取組みの効果・課題
まちに関する講座に見られるように、ドリ大の活動は、まちの良さや歴史を知り、まちに親しむきっかけになります。また、活動を通じて、まちの中にいる人々と知り合うだけでなく、各人の得意なことや強みがわかることから、この活動は、強く広がりのあるネットワーク構築につながります。
「幅広い世代・職種の人が集う」楽しさを参加者は実感していますが、まちの人もドリ大の活動には好意的です。講座に必要な情報や場所を提供するなどの協力もしてくれます。また、講座を開いた神社では、「神社の行事に若い参加者が増えた」との声があることから、一過性でない、継続的なつながりが見られます。
課題としては、現在の任意団体をNPO法人化することがありますが、学長、事務局長ともメンバーの潜在能力をさらに引き出し、もっと楽しくやろうと意欲的であることから、まちの活性化につながる動きは継続可能な状況にあります。
4.取材を終えて
ドリ大の活動は、「周囲の協力を得て、若者が自由に活動し、周囲の期待に応える」の3つが好循環となってまちの中でのつながりを広げています。 まちの商工業の発展に直接関わらなくても、コミュニティ・伝統・歴史・文化などのまちの良さを守りたい、そのためにまずつながりたい、という活動が、まちの活性化につながることを感じました。
<取材日H23年10月>