まちの記憶を遺す “五臓圓ビル保存活用プロジェクト”
ポイント
- 古い建物(五臓圓ビル)の存続を通じて、市民が市街地活性化に立ち上がり、活用をテコにしたまちの賑わい再生の動きにつながっている。
- 場所:
- 鳥取県鳥取市
- 分類:
- 【地域資源・地域特性】
- 人口:
- 19.7万人
- 協議会:
- あり
- 実施主体:
- 鳥取市中心市街地活性化協議会
まちの概要
規模・人口
鳥取県の県庁所在地である鳥取市は、県東部に位置し、平成16年の合併により20万人都市となり、特例市に移行しました。
交通など
念願であった鳥取自動車道が平成22年に鳥取県内部分が供用開始となり、京阪神地区からのアクセス時間が短縮され、交流連携の促進が期待されています。
まちの特色
鳥取市は、藩政時代には鳥取藩32万石の城下町として発展し、智頭街道商店街付近は昭和10~20年代に最も繁栄を見たといえますが、戦時中である昭和18年の鳥取大震災、戦後同27年の鳥取大火で、ほとんどの建物が崩壊、焼失した。その中で、ようやく復興を遂げてきましたが、経済的なポテンシャル低下と市街地の拡散とともに中心市街地の空洞化が激しく進んでいます。
事業内容
事業の目的
鳥取市は平成19年11月に中心市街地活性化基本計画の認定を受け、鳥取駅周辺と鳥取城跡周辺の2核と若桜街道と智頭街道の2モールを基軸とした地域活性化を進めています。
五臓圓ビルは、昭和6年、その智頭街道に鳥取では民間初の鉄筋コンクリート三階建てビルとして建てられたランドマーク的建物でした。今では、上記の大災害を耐え抜いたまちの記憶をとどめる建物として、鳥取商業繁栄の象徴ともいえる建物となっています。 しかしながら、建築以来約80年が経過し、老朽化と雨漏りで維持が困難になる中で、何とか遺したいとの目的で事業は始まりました。
「五臓圓ビル」の保存活用へ
建物所有者の森下章さんは、家族会議を重ね、取り壊し寸前まで追い込まれていましたが、喪失することへの危機感の方が強く、商店街役員に相談したところ、組合理事長の常村護さんを中心に想いに共感し、「五臓圓ビルを保存活用する会」が平成21年6月に立ち上げられました。 この建物への想いは、単に建物ひとつを遺すということではなく、鳥取の中心市街地が賑わった記憶を失くさないとの想いで結束したことです。 智頭街道商店街及び周辺地域の商業活性化を実現していくことのシンボルとして遺していくこととなりました。
森下さんは、「まちの協力がなければ、保存するという決断はできませんでした」と感慨深く振り返ります。 そして、会は、中心市街地活性化協議会の協力のもとに『まちなかナイトカフェin五臓圓ビル』を開催するなど、通常は一般公開していないビルの2階3階を、多くの方に見て、知って頂くことを目的に、月1回程度ビルの公開を行ってきました。建物は登録文化財建造物にも申請し、平成22年1月に登録されました。
「五臓圓ビル保存活用事業 「街づくり株式会社いちろく」の設立
智頭街道商店街は、今では衰退振りが激しい商店街のひとつですが、画材、美術品、ギャラリー、楽器販売、音楽教室等の文化を提供する業種が揃っており、五臓圓ビルの保存活用をきっかけとして、組合としても「文化・芸術あふれる商業エリアの構築」を基本コンセプトとした活性化の方針を固めました。
その活性化交流と情報 発信拠点として五臓圓ビルを保存活用することとなり、事業を早期に実行する事業主体として、組合有志を中心に「街づくり株式会社いちろく」が設立されました。
「いちろく」の由来は、かつて智頭街道が1と6の付く日に市が開かれ大勢の人で賑わったことから、往時の賑わいを取り戻そうという願いが込められています。
(株)いちろくは、経済産業省の戦略補助金を活用し、五臓圓ビルを取得し、改修して、地域の交流拠点として運営することになりました。補助金以外の2,600万円は寄付金などで賄っています。平成22年8月には改修工事に着手し、年度内のオープンの予定です。また、(株)いちろくは、専従の運営プロデューサーを誘致し、さまざまのイベントを企画していく予定ですが、昔懐かしく、生活文化の香りのする五臓圓ビルグッズも開発していく予定です。
取り組みの効果
平成21年7月に設立された鳥取県出身者のアーティスト達で構成される創造集団「CASOCA」は、アートの力を活かしながら鳥取に創造の場をつくりだし、地域再生に貢献することを目的とする若者たちですが、五臓圓ビルの保存活用をきっかけに、イベントなどで地元商店街との連携が新たに始まりました。
これまでの商店街活動では、「苦い経験」や「ネガティブな見方」があり、彼らのような若者を知らず知らずのうちに「枠」にはめようとする傾向があったようですが、今回の取り組みを契機に、解消しつつあるように思われます。
今後の課題
五臓圓ビルの事業化は、商店街や周辺地域のまちづくりのひとつのきっかけに過ぎません。本事業が住民たちのまちづくりへの想いに刺激となり、近隣の川端地区、二階町地区などで“まちづくり”の話し合いが始まっています。鳥取市中心市街地活性化協議会では、これらの動きを牽引しながら、さらに若者たちの個性的なアイデアを取り入れ、生活文化活性化構想として次の活性化事業につなげていくことを課題としています。 出店希望者が物件相談を不動産会社へ、開業相談を商工会議所へ、補助金相談を行政に行っても、必ずまちづくり会社に誘導され、相談窓口と情報が一元管理化される仕組みを構築しました。これにより各機関バラバラの空き店舗対策から、一元化された情報にもとづく戦略的なテナントミックスが可能となりました。
まちの声
イベントの参加者からは、「こういったイベントがなければ、市街地のドーナツ化を実感したり、具体的に考える機会はなかなかなかっただろう」との声が寄せられており、「立地も素晴らしいので、二階をカフェやダイナーとして活用していただけるとうれしい」などの声もあります。
かつて、鳥取に最先端の流行や味を提供してくれた五臓圓ビルの思い出を語る高齢者も多く、鳥取の新しい文化発信基地が生まれることが期待されているといえます。
関係者の声 今後の抱負
「五臓圓ビル再生」が、まちの「元気」を呼び起こす契機となっています。商店街関係者は、大勢若者が集まってくれることはとても喜ばしく、「文化・芸術の匂いがぷんぷんする」イベントにしてほしいと歓迎しており、これからも文化の発信をし続けることで、文化の香りの漂うような人や店舗が集まってくるようなまちづくりを進めていきたいと望んでいます。