商都米子の"まちなおし" 小さな事業の連鎖によるまちづくり
- 場所:
- 鳥取県 米子市 四日市町
- 分類:
- 【地域資源・地域特性】【情報発信】
- 人口:
- 124人(四日市町)15万人(米子市)
- 協議会:
- あり
- 実施主体:
- NPOまちなかこもんず
鳥取県西部の中心都市米子市、四日市町はそのほぼ中心にあります。
商店街の裏を流れる旧加茂川の景観を活かし、空き家・空き店舗が若手商業プロデューサーの手で店舗開発され、若い起業家たちの出店が促進され山陰のトレンドスポットになりつつあります。
米子市は、地域の資源(人、モノ、文化など)を再評価し活用する "まちなおし"をキーワードに中心市街地の活性化を図っています。
商都米子の衰退
かつて米子は、「山陰の大阪」と呼ばれ、商工会議所は明治24年の設立、全国でも26番目という古い歴史を持ち、経済活力のある商都でした。
しかし時代の流れについて行けず、長い中心商店街もシャッター通りとなってしまい、規模が大きいだけに衰退も目立っていました。
まちのコミュニティや暮らしを守ろう! 先達の試み 喫茶店 「田園」の再生
そこへ「まちのコミュニティや暮らしを守らなければ」、と3人のまちの先達が立ち上がりました。旧加茂川を浄化し遊覧船を就航させるなどユニークな活動をしてきた商店主の住田済三郎さん、お年寄りの街なか居住を進めてきた社会福祉法人理事長の井上徹さん、そして認知症の人とその家族の団体で世話人を努める吉野 立さんです。
それぞれ街に新しい風を起こしてきた三人が、力を合わせる事になったきっかけが、喫茶店「田園」の再生です。
米子の若者文化の発信基地でありながら、閉店してしまった喫茶店「田園」。これを、お年寄りも障害のある人も集える「まちなかの交流センター」に改築し、商店街を活性化させようじゃないかと3人が共同プロジェクトを立ち上げました。
2004年、1階は喫茶スペースとデイサービスルーム、2階に地域交流センターを持つ「地域交流センター田園」として生まれ変わりました。所長は前出の吉野さんが努めています。
若者たちへの連鎖 四日市町の復活
「田園」の復活で、寂れる一方だった商店街にも少しずつ人通りが戻ってきました。この成功に大いに刺激されたのは若者たち。彼らは新しい感覚で、ファッションや雑貨の店を次々と出店し、街を変えていきます。
そのシンボルが「Qビル」。旧鳥取銀行米子支店の建物をコンバージョンした複合商業施設です。
プロデュースを手がけた土橋彰臣さんは倉吉市出身。東京でビジネスを経験しますが、「商売やるなら米子だ!」と帰郷し、次々と古い建物を蘇らせ、今や若手起業家のカリスマです。彼に影響された、次世代の若者たちも育っています。
NPO設立と、協議会設置
四日市町は20代女性層を中心に、山陰一円から集客があります。しかしこの賑わいはまだ部分的で、米子市全体としての魅力を作り出すまでには至っていません。
そこでまた先達世代が、若い人も巻き込んで立ち上がります。
前述の社会福祉法人代表の井上さんを理事長とし、07年6月、「NPOまちなかこもんず」が設立されました。「地方行政は財政難のため多くは望めない。中心市街地の活性化は市民が会社をつくってやるしかない」とエリアマネジメントの中核組織を目指します。
市から中心市街地整備推進機構の指定も受け、昨年12月、商工会議所と「米子市中心市街地活性化協議会」を立ち上げました。井上氏は、「地域の資源(人、モノ、文化など)を再評価し、活用するコミュニティビジネスに取り組んでいきたい」と意気込みます。
この協議会で、米子の中心市街地活性化におけるエリアマネジメントの中心を担うのが、まちなかこもんず理事で協議会タウンマネージャーの杉谷第士郎さんです。米子コンベンションセンター館長としてUターンしてきた杉谷さんですが、地元関係者のまちづくりに対する熱意に感動し、協議会に参画してきた一人です。
次々に生まれる、"まちなおし"プロジェクト
杉谷さんが若手商業者たちに声がけし、エリアマネジメントに沿って次々と"まちなおし"が進んでいます。
(1) 三連蔵プロジェクト
中心市街地の中でもレトロ感ある法勝寺町に「まちづくり会社(株)法勝寺町」を設立し、蔵をショップ&ギャラリーに改修することを手始めに、商店街の町並み整備を進めています。
(2) 夢蔵プロジェクト
建築士会のメンバーを中心としたボランティアで、旧加茂川沿いの白壁土蔵復活を試みてきましたが、08年に「夢蔵」としてオープン。協議会を中心に、他の蔵と連携で一体的な運営を模索中です。
(3) 喜八プロジェクト
米子出身の映画監督、故岡本喜八氏の生家を活用して米子の文化情報発信をする活性化事業。「NPO喜八プロジェクト」が担います。
(4) 今井書店本通り店建物再利用プロジェクト
「今井書店本通り店」は、加茂川と商店街の双方に意図して顔を向けた店舗。新店舗開発で閉店しますが、「新しいまちづくりのために活用して欲しい」と協議会に建物のマネジメントを託し、若手事業者による運営を期待しています。
(5) まちなか居住プロジェクト
高齢者専用賃貸住宅事業のモデル開発プロジェクトです。「高齢者が街なかに住める環境を提供したい」と設立された有限責任中間法人ふるさと再生機構が進めています。
米子市の"まちなおし"から学べること
米子の"まちなおし"の取り組みには、地方都市活性化へのヒントが含まれています。
(1) 小さな事業の連鎖
投資は少なくても行動力と知恵、エリアマネジメントに基づいて個々の事業を連鎖させ、ゾーンとして変えていけば、夢のあるまちづくりは可能だということが分かります。
(2) 先達と若者をつなぐ信頼
先達たちは「まちをどう暮らしやすくするか」「地域に何が大事か」を理解しています。また、若者たちの「まずやってみる」姿勢にも寛容です。先達たちの実践が若者の共感を呼び、次代へと繋がっているようです。
(3) 市民起業による活性化
自らリスクを負って意欲的に起業する若者、それを見守り、支える先達、という仕組みの必要性を教えられます。
おわりに
商都米子は、外から来た人を「よそもの」と排除せず、受け入れる土壌があるといわれます。
権威がはびこらず、実績がなくても挑戦を受け入れる土地だからこそ、「新しいことを起こすのは米子が最適」、「山陰のカテゴリーを試すのは米子から」と言われるのだと思います。