民間にできないことをやる! 町民参加のまちづくり ~(株)出石まちづくり公社~
- 場所:
- 兵庫県 豊岡市出石町
- 分類:
- 【地域資源・地域特性】【景観】
- 人口:
- 1万人(出石町)8.5万人(豊岡市)
- 協議会:
- なし
- 実施主体:
- (株)出石まちづくり公社
出石は兵庫県の北部、但馬の小京都と呼ばれ、山に囲まれた小さな城下町です。平成17年4月、1市5町の市町村合併により、現在は豊岡市出石町となっています。
城の復元から始まったまちづくり
出石のまちづくりは、昭和43年の出石城隅櫓の復元に始まります。瓦に名前を書いて1,000円の寄付をもらうなどで、当時の総工費2,300万円の全てを町民から集めたといいます。
平成6年、城前の登城橋、登城門を復元した際も費用1億円のうちの半分は町民の寄付でまかなったそうです。
城の復元は、「辰鼓楼」(明治時代の櫓)をシンボルとしていた出石の町に新たな観光資源を加えました。これが町民参加のまちづくりが始まるきっかけにもなったのです。
「出石そば」の誕生秘話
かつての出石は、観光名所である「天橋立」や「城崎」の間に位置しながら観光客は素通り。客を何とか出石に引き寄せることはできないか、と出石町観光協会は知恵を絞ります。
そこで考え出されたのが、地元で採れるそば粉を使った"皿そば"。藩政時代から、町の人には親しまれている品ですが、地元の出石焼の小皿に、1人前を5つに小分けして出す、という食べ方の工夫をしました。自分のおなかにあわせて追加ができ、客単価も上がるのではないか?という狙いです。
協会では全国各地で実演販売を行いPRしていきます。販売方法も研究し、おみやげ用の皿そばも開発し、あの手この手の努力が実り、「出石そば」は全国的な知名度を得ます。
観光客が増えるにつれ、そば屋さんも増えます。担い手はほとんどが地元町民。大工さんなど異業種からの参入もありました。かつては町に2軒しかなかったそば屋さんも、現在40軒近くに増え、年間売り上げ数十億円。それを目当てに年間100万人が訪れる一大産業に成長しました。
観光協会に町民が参加
出石を全国区に押し上げた立役者の観光協会ですが、昭和48年に協会員を一般公募したところ、サラリーマンや医師など、直接観光に関係のない町民も大挙して入会したといいます。
城の復元で、まちづくりに対する意識が高まったからでしょうか。全国でも珍しい町民参加型の観光協会は、昭和63年に設立した「いずし観光センター」などで順調に売り上げを伸ばします。その収益は、出石町の観光振興基金に組み入れられ、武家長屋資料館など町の観光振興に活かされてきました。
観光協会から、まちづくり公社へ
収益があるなら任意団体の観光協会でなく、法人にしよう、という検討がなされます。問題は出資金ですが、ここでも町民が積極的に参加します。資本金5,000万円(1,000株)のうち町が半分の500株、商工会が60株を保有、残り440株は118人の個人出資者が支えました。
そして平成10年、出石町観光協会の事業部門が独立し、(株)出石まちづくり公社が誕生しました。専従職員16名。設立3期目から配当を出している、まちの優良企業でもあります。
公社は翌11年、中心市街地活性化の担い手・タウンマネジメント機関の認定を受けました。前述のとおり出石町は平成17年、合併し豊岡市になりましたが、「出石のまちづくりは町民主体でやるべきだ」という意見から、公社は増資を決めます。
合併前年の平成16年、台風23号による洪水被害が出る中でも、大勢の町民が出資に応じ、現在資本金は9,800万円。行政の出資比率は約20%に下がり、今や330名の町民が株主の主体となっています。
出石まちづくり公社の取り組み
公社はいずし観光センターのほか、観光ガイド、ハーブショップ、連蔵風のショッピング&グルメスポット "出石びっ蔵"運営、各種イベントや、駐車場・空き地・空き店舗有効活用、トラベルサービス事業まで展開しています。これは、住民の利便性と観光客誘致の目的で平成18年度からスタートさせたものです。
次々と新しい事業展開をする一方で、公社は、まちづくり会社として自分たちの根幹は民業圧迫ではない、民間にできない仕事をするべき、との強い思いがあります。従って、当初からの事業であった直営そば店なども、民間ができる収益事業になった段階であえて手放し、未来に向けた新しい事業を手がけています。
永楽館 44年ぶりの復活
その一例が、「永楽館」の再興です。近畿に現存する芝居小屋としては最古と言われるこの建物をぜひ復活させたい!という住民の声を受け、市は2年がかりでこれを修復しました。
公社は指定管理者となり、この8月無事、こけら落し大歌舞伎を成功させました。370席は満席。実に44年ぶりの復活です。永楽館もひとつの核として、集客を面的に展開し、回遊性を持たせる計画です。
編集後記
ほかにも、出石が重要伝統的建造物群保存地区の指定を受けたことにともなう町並み整備や、地元の盆踊りを拡大した夏祭りなどを企画し、夜もそぞろ歩ける出石を演出し、昼間だけとなっている観光客に宿泊してもらう試みもスタートしています。今回いろいろなお話を聞かせていただきました。
お城の復元に始まり、出石を見事に蘇らせた町民参加のまちづくりは、未来へ確実につながっていると感じました。