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中心市街地活性化協議会支援センター

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まちづくり事例さまざまな市街地活性化課題解決のヒント
まちづくり事例

長浜まちづくり株式会社

取組のポイント

  • 経営安定のための事業多様化の取り組み
  • スペシャリストを採用し、まちづくりに必要な多機能人材に育成
  • 毎日の積み重ねでお金の知識習得

1.長浜まちづくり株式会社の取組

吉井氏

長浜といえば、昭和60年から「商業×観光」をコンセプトに推進された株式会社黒壁のまちづくりで有名です。来街者は平成元年の10万人以下から平成13年には、200万人以上となり、現在も「黒壁スクエア」を中心にまちなかに店舗やレストランが整備されています。

 このようにまちづくりの成功例として取り上げられる長浜ですが、観光客向けの店舗が増え、商業活性化は達成されたものの、市街地の居住者は減少を続けていました。そのため、平成21年に中心市街地活性化基本計画エリア内の商業・居住・コミュニティに関するトータルマネージメントを中立的で公平な立場で推進することを目的に、長浜まちづくり株式会社(以下、「同社」)が設立されました。黒壁の初期の時代から一貫して、長浜のまちづくりを推進してきたのが、同社でコーディネータを務める吉井茂人氏です。

 現在、吉井氏が力をいれているのは、長期的な視点で活力あるまちづくりを実現していくために、まちづくり会社独自の自主事業を確立し、安定経営を推進することと、その担い手であるまちづくり会社の人材を育成することです。補助金や受託事業に依存せず、自主事業の収益事業を実施していくために、まちづくり会社のスタッフはもっと財務知識を身につけなければならないと強調しています。

 平成26年度には、経済産業省主催のまちづくり関係者向けの研修で、「まちづくり会社の財務諸表入門」と題した講座を担当しました。まちづくり会社独自のお金の流れについて、同社の決算書を使い、具体的にわかりやすく講義されました。

 まちづくり会社の安定経営のための自主事業の取り組みと人材育成について、お話を伺ってきました。

(1)まちづくり会社の安定経営のための取り組み

1)事業多様化の取り組み

現在の主な事業は、下記の通りです。

  1. 駐車場運営(市、個人より土地賃貸)
  2. 受託事業(国・市・商工会議所からの調査事業など)
    • 住宅再生バンク実践プログラム業務(調査提案)
    • 町屋改築・コミュニティ活動強化
    • 商店街振興組合へのコンサルティング
  3. 不動産収入(町家賃貸事業)
    • 町家シェアハウス運営
    • 住居・オフィスの賃貸(ユーザー投資)
    • 長浜町家再生バンク運営(調査・企画・広報他)
  4. 手数料収入(視察・講演・コンサルティング等)
  5. 安藤家入館料(北大路魯山人の装飾品と庭園鑑賞)

 長浜のまちづくりでは、株式会社黒壁が、既存の土地建物を活かした再整備事業を行っており、また、不動産活用の目的・用途に合わせて10社以上の株式会社やNPO法人が設立されています。事業多様化といっても、同社に期待されるのは、まちなか居住につながるような町家活用の事業や行政との連携した事業、今後民間の事業のモデルとなるような事業の推進です。

 平成21年度の設立時には、収入の7割を駐車場収入が占めていましたが、事業の多様化を図り、現在は5割まで下げています。[3]の不動産事業は、国や県の受託事業として、町家や空き家活用の調査事業を行った後、必要な投資を引出して補修改装し、賃貸事業を実施しています。[5]の安藤家は、長浜市を代表する歴史的建造物ですが、観光協会が手離して4年間閉館していました。現在は、同社が安藤家1階の一部に事務所を置き、運営業務を兼務しています。安藤家の入館料が安定収入の一部になっています。その他、まちづくりに必要な調査事業や受託事業に取り組み、設立2年目より継続的に利益を上げています。

2)経営安定のための取り組み
安藤家

駐車場事業と不動産事業について、経営を安定させるためにはどのようにしたらよいでしょうか。不動産事業では、常に空き家発生のリスクや家賃や運営経費等、固定費の負担を考慮しなければなりません。そのため、固定収入を増やし、リスクを下げる工夫をしています。

1 流動的収入を固定収入化する

  • 時間貸しだけでなく、月契約の併用
  • 夜間限定定期と平日限定定期料金の設定
駐車場の時間貸しだけでは、天候や季節の繁閑の影響をうけますが、月契約にすることで固定収入を見込むことができます。さらに利用時間帯・曜日別に、定期契約することで、一つの駐車場を二重三重に活用しています。

シェアオフィス

2 リスク軽減とスポット収入の増加

  • 町家をシェアオフィスとして転貸(サブリース)
  • オープンスペースの貸出、イベント開催でスポット収入の増加
長浜には、伝統的な町家の空き家が多数あります。町家を賃貸するには、改修費の負担が大きく、また、賃料も高くなり、借り手は限られます。そのため、同社が不動産オーナーと賃貸契約し、シェアハウスやシェアオフィスとして分割して貸し出し、安定した賃料を得ています。また、シェアハウスの一部をオープンスペースとして貸出し、固定賃料以外にスポット収入を得ています。

(2)まちづくりの人材育成

現在、商工会議所からの出向である吉井氏とともに、3人の社員が働いています。吉井氏は、まちづくり会社には、優秀なスタッフを継続雇用するしくみが必要だと考え、継続雇用・フルタイムでの採用を基本としています。

1)人材育成
安藤家のお帳場
[1]スペシャリストを採用し、まちづくりに必要な多機能な人材に育てる

現在のスタッフは、プランナー、経理、総務の3名です。少人数で様々な仕事を行うため、まちづくり会社の社員は守備範囲が広くて柔軟な対応が求められます。多機能な人材をどのように採用・育成しているのでしょうか。

 プランナーは、建築設計とコンサルタントの経験を持ちます。大学院在学中に中活事業の調査事業で長浜に長期滞在した後、長浜への移住を決め、入社しました。町家やまちの再開発に必要な建築の専門家であり、地域ネットワーク作りが得意で、行政・民間関係者と連携し、まちづくりを推進しています。

 経理スタッフは、ハローワークで、「IT技術と数字に強い人で、CADシステムの経験のあるひと」という条件で採用されました。簿記資格や経理経験者より、数字のセンスがあり調査事業の集計ができることを優先しました。経理は、税理士と同じソフトを使い、毎日の仕事で覚えました。

 総務スタッフは、パンフレットやチラシなどの印刷物の内製化を考慮し、ハローワークでデザインの経験者を募集したところ、新卒の芸大卒の女性を採用することができました。

 こうして、建築、IT、デザインの3人のスタッフが、マネジメントや経理・総務の知識・技術を身につけることによって、まちづくりに必要な何役もの役割を果たしています。管理業務を行いながら、一人一人が収益につながる活動をしています。

長浜まちづくり会社の収支
[2]毎日の積み重ねでお金の知識習得

同社では、日々の経費や事業のまとめの中で、常に対前年比などの比較を行い、資料や口頭で吉井氏に正確な数字で報告をしています。

例えば、右図は、同社の駐車場部門の年次報告を簡単にしたものです。昨年と比べた費用の増減とその理由が、一目でわかります。

各事業の事業報告やイベントごとに、常に月次・年次で対前年の比較を行い、売上・利益の増減理由や事業の損益の特徴を把握し、今後の収益性を予測します。

不動産事業では、家賃と水道光熱費・修繕費の予測が事業収益性に大きく影響します。店舗の光熱費を負担している賃貸物件では、経理スタッフから「冬は光熱費が上がるのでもっと稼がないと赤字になる」と指摘されたことがありました。毎月の数字を締めるだけでなく、先を見越した気づきができるようになることが大切だと吉井氏は語ります。

2)中小機構のアドバイザー派遣の活用

吉井氏が、まちづくり会社のスタッフに財務知識が必要だと強調する理由は下記のとおりです。

長期的な視野でまちづくりを行っていくには、まちづくり会社のお金の流れがわからなければなりません。補助金で建物整備費の大半を賄うことができても、継続的な事業とするためには、事業の位置付けや将来の存在価値を明確にして、事業立上経費とその後の運営費を見積もり、自ら投資を行うか、民間融資や公的資金を引き出す必要があります。事業の収益性や投資資金の回収可能性について、正しく判断することができなければ、自社の役員はもちろん、株主や金融機関に融資や投資の必要性を説明することもできません。

平成26年度からは、中小企業基盤整備機構(中小機構)の 中心市街地商業活性化アドバイザー派遣事業 別ウィンドウで開きます を活用し、公認会計士の資格を持つアドバイザーの派遣を受けています。そのねらいは、まちづくり事業への投資の可否判断と収支計画の妥当性を精査できる体制を自社で整えるためです。過去の開発事業では、商業施設の家賃収入について、家賃不払いや退店リスクを考慮しないで、100%フル稼働の計画を作っていたことがありましたが、アドバイスを受け、リスクを考慮した事業計画を策定することとし、事業評価の精度を高めます。アドバイスを活かし、まちづくりに関わるより多くの人が数字に強くなることを期待しています。

2.今後のまちなか居住推進への課題

(1)「長浜町屋再生バンク」の取り組み

シェアハウス絹市

まちなか居住の促進、新しいマーケットと担い手育成を目的に、長浜市と連携し町屋再生バンク実践プログラムを行っています。

 空き家再生事業で問題となるのは、残された家財の処分と建物の修繕をどうするかです。大きな町家では家財処分費が数十万円になることもあり、また、屋根や水回りの修理費用も多額になり、空き家活用が進まない要因になっています。

 同社では空き町家の活用に当たり、まず、利用可能な建物について、建物の現況確認を行い、賃貸や売買等、物件にふさわしい再生方法を提案します。これらの情報を町家再生バンクに集約し、すぐに貸すことができなくても、まず、家財を処分し、空き町家を維持管理する「風通し」を行いながら、新たにそこに暮らしてみたいという方への「橋渡し」をし、町家を現代の暮らしの器として再生することをサポートしています。

(2)まちづくり会社の役割

吉井氏は、同社の役割は、まちの資産をよく知り、まちのあるべき姿に基づき、中立の立場で行政や不動産会社、オーナーとの調整を図ることと考えています。貸し手・借り手および関係者の情報が集まるしくみを作ること、国や市の支援策をよく知ることが重要です。そのため、積極的に、国や県・市の補助金を活用し、まちづくりに必要な調査事業を実施してきました。例えば、平成20年から25年まで、まちなかの全空き家の調査を行いました。これらの調査が町家再生バンクに役立っています。

3.取材を終えて

多くのまちづくり会社では、まちづくりを継続的に行っていくための収益事業の確保や事業を推進する人材がいないという問題を抱えています。補助事業で有期のタウンマネージャーを採用するまち作り会社も増えていますが、それだけでなく、自分たち以外でまちづくりに必要な人材を想定して、長期的な視点で人を育てることが今後ますます必要になると感じました。

取材日 平成27年11月

長浜市

まちの概要

長浜市は、滋賀県の北東部に位置し、琵琶湖に面した人口12.4万人の都市です。羽柴秀吉(のちの豊臣秀吉)が初めて城持ち大名となった長浜城の城下町として開かれました。江戸時代には北陸道と名古屋・京都・大阪を結ぶ北国街道の宿場として栄え、伝統的な町家に近江商人の繁栄の跡が伺えます。

まちづくり会社の概要

会社名:
長浜まちづくり株式会社
所在地:
滋賀県長浜市元浜町7番5号
設立:
平成21年8月10日
資本金:
5,300万円(平成27年8月)
主な出資者:
長浜市1,600万円、長浜商工会議所800万円、民間2,900万円
スタッフ:
4名

長浜まちづくり株式会社
http://www.nagamachi.co.jp/ 別ウィンドウで開きます
株式会社黒壁
http://www.kurokabe.co.jp/ 別ウィンドウで開きます

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