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「食」の持続可能性確保と表裏一体で進める中心市街地活性化(大分県臼杵市)

2.事業主体

サーラのハード整備は臼杵市が行い、株式会社まちづくり臼杵(以下、「まちづくり臼杵」と言う)が運営に関わっています。まちづくり臼杵は旧中活計画に取り組んでいた平成13年に設立され、平成19年には改正中心市街地活性化法(以下、「改正中活法」と言う)の都市機能増進を担う役割となり、臼杵商工会議所と臼杵市中心市街地活性化協議会を組織しました。中心市街地活性化の牽引役として期待されていましたが、改正中活法の運用が不透明になる中で活動自体も縮小していくことになりました。

しかし、平成26年8月、地域おこし協力隊(以下、「協力隊」と言う)・石橋浩二さんの赴任がまちづくり臼杵の転機となりました。システムエンジニアだった石橋さんはSNS等による地域の情報発信の他、ITイベントの企画・実施、臼杵古里映画学校の運営サポート、無農薬米作り等、多岐に渡る活動を展開していたところ、まちづくり臼杵からサーラのリニューアル事業について協力依頼がありました。招聘された検討委員会で披露した構想が評価された石橋さんは、まちづくり臼杵の常務執行役員として迎えられ、サーラのマネージャーの肩書を与えられました。会社勤めの頃に通ったビジネススクールの修士論文「まちづくり経営」で考察した視点を地域おこし協力隊の文字数制限のない応募書類に込め、サーラのリノベーションというフィールドで実践されることになりました。それは同時に、まちづくり臼杵の再生にも重なっていくことになったのです。

3.事業経緯・内容

サーラとはポルトガル語で“居間”を意味し、「マルチメディアを利用した、まちなかのにぎわい創出」をコンセプトに平成14年、中央通りの西側寄りに旧中活計画の事業として整備されました。施設はパソコン等の情報機器を備えた“ふれあい情報センター”とイベントを開催する“まちんなか交流館”の他、café&bar“ポルト蔵”で構成されていました。開館後はマルチメディアの浸透やにぎわい創出に貢献しましたが、パソコンやスマートフォンの普及により近年では稼働率30%台にまで落ち込み、来館(来街)者数増強やにぎわい創出のための新たな方策が課題となりました。


サーラ・デ・うすき「施設」と「にぎわい広場」


サーラ・デ・うすき「交流ホール」

山海の幸が豊富な大分県にあっても一地域に両者が揃うことは珍しいなか、臼杵は農産物と魚介類が豊富な恵まれた環境にあります。石橋さんはこの強みに着眼し、地域の人、外からの人を呼び込むためには「食」しかないと考えました。臼杵市では有機農業推進のため草木類8、豚ぷん2の割合で混合、完全熟成させた“うすき夢堆肥”を製造し、農家だけではなく一般市民にも販売しています。“うすき夢堆肥”は土壌成分のバランスを整え、微生物の働きを活発にして“美味しい有機野菜”を作ります。この“うすき夢堆肥”で栽培された農産物は厳正な検査を経て、市長より“ほんまもん農産物”として認証されます。“ほんまもん農産物”のうち化学肥料を使わず、最低限の化学合成農薬だけを使ったものは“緑のマーク”が、化学肥料も化学合成農薬も使っていないものは“金のマーク”が付与されます。現在では食育の一環として小中学校の給食に取り入れられ、市内のスーパー等でも取り扱われています。魚介類は豊後水道で一本釣りされる名物のアジやサバをはじめとして養殖のカボスぶりやアワビなども豊富に水揚されています。つまり、臼杵市民にとっては新鮮、安全、安心な山海の幸が日々の食卓に並ぶ機会も少なくはないのです。しかし、消費者にとって歓迎すべき安価な山海の幸は、廉価で提供する生産者にとって必ずしも同じ意味ではないという疑問が石橋さんにはありました。背景には、現在の70歳代をピークとする農業・漁業の従事者が今後、減少していき、安価な食材確保が困難になることが想定されるからです。今から何がしかの対策を講じる必要性を感じていた矢先に、サーラのリノベーション事業の話が舞い込んできたのです。

サーラのリノベーションに「食」を導入して中心市街地活性化を推進する上で、「食」の持続可能性は必要不可欠であり、そのためには農家・漁家の収入を増やすこと、魅力を高めて従事者を増やすこと、そして生産性を維持、向上させることが重要であると考えました。施設は臼杵産の農産物や魚介類の良さ、美味しさ、こだわりを内外に浸透させて価値を向上させるために、“ほんまもん農産物”を中心とした四季折々の野菜が味わえるオーガニックレストラン“Rosetta(ロゼッタ)”、豊後水道で獲れた新鮮な地魚料理や海産物が味わえるレストラン“うすき魚心(うおしん)”、「食」を通じた交流の場となる調理場・会議室(つまみキッチン)、そして臼杵産の農水産物の加工や商品化、いわゆる六次産業化を支援する食品加工施設“臼六(うすろく)オープンラボ”の4施設が従来からある交流ホール、ギャラリー、にぎわい広場、ポルト蔵に加わりました。コンセプトも新たに「臼杵の台所」に刷新して、家族(市民)やお客様(観光客)が集い、交流し、体験する等の拠点として機能することが意図されています。

“臼六オープンラボ”は商品開発により、生産者の“旬以外”の現金収入を少しでも増やすことを目的にしています。加工ルームと商品化ルームに分かれており、高速度粉砕機等11種類の機器が使用でき様々な加工品を作ることが可能になっています。生産者は試行錯誤する中で売れなかった時のリスクを極力回避し、“売れる可能性のある商品”に特化していくことがねらいとしてあります。例えば、カボスをそのままの形で輸送するには大きさや重さの点でコストが掛り、形状や鮮度の面でも慎重さが要求されますが、加工して汁液にすることによってコストダウンや販路拡大に繋がることが期待できます。また、市外の人も安価で利用できるため、多くの人が使うことによって生産者や事業者間での繋がりを生み、商品化のスピードアップやブラッシュアップも期待されています。石橋さんは商品化に際してパッケージデザインや手軽さ等も重要と考え、今後、それらの支援にも本格的に取り組んでいく予定です。


魚心「地魚バイキング」


臼六オープンラボ「商品化ルーム」

サーラのような公共施設はその用途等を条例で定めており、見直しには慎重を期すことも多々あります。計画段階から、地域に一番近い者の一人としてまちづくり臼杵が関わり、民間の知恵やノウハウを注ぎ込み、それに呼応して行政も小手先ではなくコンセプトの見直しから大胆なコンバージョン、リノベーションまで遂行したことは社会情勢等の環境変化に柔軟に対応した取り組みとして評価できます。旧中活計画から続く中心市街地活性化の取組みをPDCAサイクルの中できちんと位置付けていたとも言えるでしょう。また、中心市街地活性化の戦術に地域の「食」を単に引用するのではなく、臼杵の農水産物に付加価値を付けて魅力を創出し、生産者の収入を増やし安定供給に繋げるようバックボーンにある「食」の持続可能性も表裏一体として取り組む戦略は特筆すべき点と言えます。