昭和初期建築の木造工場を活かした映画館「鶴岡まちなかキネマ」

■ポイント

  • シネコンとの差別化・棲み分けを図るためのチャレンジングな取組
  • 商店街と映画館のフィールド・アライアンスによる連携の取組
まちなかキネマ
  場所: 山形県鶴岡市
  人口: 13万人
  分類: 【教育・文化】 【空き店舗・空きビル】
 協議会: あり
実施主体: 株式会社まちづくり鶴岡      
 支援策: 戦略的中心市街地商業等活性化支援事業費補助金
関連リンク: 鶴岡まちなかキネマ
http://www.machikine.co.jp  


1.まちの現状と課題

(1)まちの現状

 山形県鶴岡市は、山形県の西部に位置し、南部は新潟県と接しているところにあり、その市街地は、城下町の風情と、バイオベンチャー企業を数多く輩出するという新旧の文化を併せ持った地域です。

 しかし、地方都市の御多分に漏れず、中心市街地の人口及び世帯数の減少と高齢化に加え、郊外に進出したショッピングセンターへの買物依存度の高まりに相前後して、中心市街地の大型集客施設の撤退や経営不振・後継者不足による閉店が続くなど、商業機能弱体化の負のスパイラルが顕在化しています。



参考
商業統計のH3/H14比では、中心市街地の店舗数69%、従業者数70%、店舗面積79%、年間小売商品販売額58%、通行量調査のH6/H17比にあっては、中心市街地の自転車・歩行者数が休日41%、平日42%となっている。

 他方、観光入込み客数は、観光客の立ち寄りスポットが増えたことと、観光ガイド案内やレンタサイクルなどのソフト事業展開により増加傾向にあります。

(2)課題

 中心商店街の衰退は、都市全体として機能性の低下や地域コミュニティの崩壊をもたらすたけでなく、市街地に集積する歴史的文化施設や芸術文化施設をはじめとする有形・無形の観光資源の魅力半減にもつながるものであり、商店街の商業機能+アミューズメント機能の充実、歴史性や城下町情緒に配慮した快適性・利便性の向上が潜在的課題となっていました。

 また、市内にあった映画館は隣町で開業したシネマコンプレックスの影響を受け閉館となってしまいましたが、郷里庄内を舞台にした藤沢修平作品の映画化やフィルムコミッションによる撮影誘致により、街なかに俳優が闊歩し、映画を身近に感じる風潮が醸成されてきたことから、山王商店街近傍で歴史ある繊維メーカーである松文産業株式会社の遊休資産となっていた絹織物工場を映画館として活用する案が浮上してきました。

 そのため、平成20年7月に認定された鶴岡市中心市街地活性化基本計画においては、活性化区域のほぼ中央に位置する山王商店街におけるふれあい・賑わいゾーン整備と映画・文化施設整備、銀座商店街における伝統工芸展示・体験・物産事業などのまちの魅力向上が盛り込まれました。



鶴岡市基本計画


2.松文産業工場跡地整備事業の取組

旧鶴岡工場
まちキネ入り口

 上述の状況のなか、昭和初期建築の木造工場を活かした映画館「鶴岡まちなかキネマ」の事業に取組まれた、株式会社まちづくり鶴岡の企画部長である菅氏に、お話を伺いました。

(1)取組の目的

 基本計画に掲げた事業のうち、映画・文化施設整備(松文産業工場跡地整備事業)については、上述した絹織物工場(昭和初期の木造建築、敷地は約3千坪)を、映画館、撮影スタジオ、貸しスタジオ、駐車場にリニューアルするもので、地域に根差した映画館が集客・回遊の呼び水となり、山王商店街及び銀座商店街の取組と連携して持続的な賑わいを創出していくことが主な目的とされました。


(2)事業の内容

 映画・文化施設整備事業の事業主体は、事業費に用地取得費が上乗せされ、既存のTMOではハード整備が困難なこと、駅前再開発の第3セクター事業が負債を抱え市からの出資が望めないこと、スピード感を持って具現化する必要があることなどの理由により、民間セクターが最適と判断され、平成19年6月に鶴岡商工会議所の加盟企業32社が出資して株式会社まちづくり鶴岡が設立されました。その後、平成21年度の戦略的中心市街地商業等活性化支援事業費補助金が採択され、平成22年5月には、スクリーン前にステージを有する大小4つのシアター(座席数40、80、152、165)にベーカリーショップ(当初はレストラン)を併設した映画館「鶴岡まちなかキネマ」(以下「まちキネ」)が開館しました。

 なお、当初計画では、映画撮影の屋内スタジオと芸術文化活動の活動拠点となる貸しスタジオも併せて整備する予定でしたが、土地・映画館・駐車場のイニシャルコストが10億2,603万円(補助金額2億4,498万円)と膨らんだことに加え、融資元の金融機関から両スタジオの収益性が低いと判断されたこともあり、事業未実施となっています。

3.松文産業工場跡地整備事業の効果

(1)まちキネ来館者の推移

まちキネサイン
まちキネのエントランスホール

 開設当初は、集客の仕掛けが十分ではなく、また、古い映画を古い映画館で上映するといったネガティブ・イメージが巷間で囁かれたことも働き客足は伸びなかったが、効果的効率的な広報宣伝とリピーターを呼び込む独自企画を地道に展開したことにより2~3年目から増加傾向に転じ、最近では年間に7~8万人が来館しています。

 基本計画の目標集客数は、地元来館者9万人/年、交流人口6万人/年、貸しスタジオ6万人/年で、貸しスタジオを除く目標達成度は5割程度となります。しかしながら、鶴岡市の人口13万人をベースにすると、国民一人当たりの年間映画館利用回数1.25から算出される理論値の約5割に達する来館者数であり、シネコンのシェアを勘案すると十分過ぎるレベルの数値となっています。


(2)シネコンとの差別化・棲み分け

 まちキネは、映画館が大き過ぎる、借金も多過ぎる、集客機能が十分とは言えないといった課題を抱えて創業したことから、否が応でも映画上映以外の付加価値も加味した利活用方策を模索しなければならず、次に掲げる取組を通じてシネコンとの差別化・棲み分け路線を定着させてきました。

  • 地域文化の発信基地:エントランスホールを利用したミニコンサート、展示販売、上映後の婚活パーティーなどの開催。シアター及びステージを利用した落語や朗読会、セミナー・シンポジウム、企業プレゼンなどの開催。中でも展示即売は、異業種(映画館と商店)のフィールド・アライアンス(※1) を実践する場であり、商店街の蔵を活用した取組に発展している。
  • リピーターの確保:世代を問わず映画館に足を運んでもらうため、コンテンツにバリエーションを持たせているが、中小映画館なりの苦労もある。例えば、昨年大ヒットした「アナ雪」は、ディズニー作品との繋がりがなかったため、配給に漕ぎ着けるまで非常に苦労した。
  • 地域とのパイプ構築:有志が切望するマイナー作品の上映(企画提案と前売券の斡旋を有志が行い、まちキネは作品を手配)。これまでに有志は100名以上に達し、まちキネの応援団的存在として情報発信の一翼も担っている。また、生協とタイアップした映画サークル上映会も実施。

※1 フィールド・アライアンス:
企業が長年培ってきた事業の場(フィールド)で磨いてきた技術や製品を活用して、他の事業分野の企業と連携・協働(アライアンス)すること。本稿にあっては、映画館と商店が互いの顧客を共有し、3者がWin-Win-Winの関係となる商品・サービスの提供を意味する。

(3)経営面での改善

案内チラシ

 債務の返済は、1年間の据置き後の2年目から行ったが業績が十分に伸びなかったため、3~4年目は返済猶予期間に充て事業計画を見直し、次に掲げる経営改善を行ったところ功を奏し、5年目を迎えた今年度からは計画的な償還に目途がついたところです。

  • 広告宣伝費:市内各所へのポスター・チラシ配布、FM放送による宣伝を行っていたが、これらを取捨選択し、現在では、厳選した商店・飲食店や公民館等に上映ガイド(月単位)とスケジュール表(週単位)を置いている。因みに、配布数で群を抜くのはスーパーの作荷台(レジ通過後の商品詰替え作業台)に置くスケジュール表となっている。
  • 人件費:開設当初は20人体制だったが、現在は効率的なシフトを敷き学生アルバイトを含む14人体制としている。
  • 多角化:ホームページやチラシの制作は専門のクリエーターによる内製化を図り、外注費を削減。また、このスキルと地域・商店街の動向を熟知している強みを活かし、安く・早く・クオリティを落とさない情報発信サポートを商工会議所や株主を中心に展開している。

4.今後の展開

銀座商店街の映画ポスター

(1)集客施設としての魅力の維持

 イニシャルコスト返済のほか、経年劣化や技術革新等に伴う建物・設備の改修・更新に備えるためには、軌道に乗りつつあるシネコンとの差別化・棲み分け路線の質的向上を図りながら、リピーターの裾野を拡充させていくことが必要となっています。婚活パーティーや企業プレゼン、有志の応援団化などはその一例であり、全国的にも先進事例となり得るイベント等の取組拡大が期待されます。

(2)商店街と連携した賑わい創出

 既述したように、まちキネは来街の動機付けを担う施設として役目を果たしてきました。商店街とのフィールド・アライアンスについては、展示販売のほかにも映画の半券で商店街のサービスを受けられる取組を展開しているが、5%程度の割引サービスが主流でリピート効果の発現に至らないケースが少なくないことから、総じて個店における創意工夫が必要な状況に置かれています。ごく少数ではすが、顧客の拡大に繋がり半券サービスを卒業した店舗もあることから、これをロールモデルとしたボトムアップに期待したいです。

5.取材を終えて

 松文産業工場跡地整備事業に対する融資は、地域と政府系の4金融機関の協調で行われています。(株)まちづくり鶴岡の社長と企画部長は融資元幹事行からの出向者で、経営スキルに秀でまちの魅力創出にも造詣が深く、チャレンジングな企画を次々と現実のものとしており、“カネも出すが口も出す”ハンズオン型リレバンのモデルケースと称されても過言ではないと思います。



<取材日 平成27年6月>


6.まちの概要

(1)規模・人口

鶴岡市の位置

 山形県の西部に位置し南部は新潟県に接する鶴岡市は、平成17年10月に、鶴岡市、藤島町、羽黒町、櫛引町、朝日村、温海町の六市町村が合併した地方都市で、面積は1,311km2と東北一の広さを有しています。人口は13万2千人(H27.5住民基本台帳)、商圏人口は13万4千人(H19商業統計、吸引力係数95.3)です。

(2)交通アクセス

 空路は、羽田空港~庄内空港が1時間で、鶴岡駅から30分圏内に庄内空港が位置している。また、山形新幹線(東京~山形)と高速バス(山形~鶴岡)の乗継所要時間は概ね5時間です。

(3)地勢

 海岸・平野・山岳部と多様な自然環境を有し、クラゲ展示数世界一の加茂水族館、穀倉地帯の代名詞になっている庄内平野、山岳信仰・修験道の聖地となっている月山・羽黒山・湯殿山の出羽三山の名称は、誰しも一度は耳にたことがあるのではないでしょうか。また、旧鶴岡市の市街地は、城下町の風情が色濃く残り旧藩校の致道館が現存する一方で、統合システムバイオロジー(※2)研究で世界的に注目を浴びている慶應義塾大学先端生命科学研究所が隣接し、バイオベンチャー企業を輩出するなど新旧の文化が融合している地域です。


※2 統合システムバイオロジー:
生体や微生物の細胞活動を網羅的に計測・分析し、コンピュータで解析・シミュレーションして医療や食品発酵などの分野に応用するもの。

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